ガザ地区での人道危機が深刻化をきわめる中、NHKで2014年に放送された「こころの時代〜宗教・人生〜ガザに“根”を張る」が再放送、配信されています。
 


 

中東問題に限らず、人としての「尊厳」について、これほど深く実践的に考え学べる機会は滅多にありませんので、NHKアーカイブで一人でも多くの方に是非ご覧いただきたいと思います。

https://www.nhk.jp/p/ts/X83KJR6973/episode/te/LP6QP9X8RP/
 


 

主人公のラジ・スラーニ弁護士は、パレスチナのガザ地区で長年にわたって人権派弁護士として活動を続け、「パレスチナ人権センター」の代表としてガザで日々起こる人道危機を世界に告白し続けています。

2013年には、「第二のノーベル平和賞」と言われるライト・ライブリフッド賞を受賞したスラーニ氏ですが、心あるイスラエル人たちとは変わらぬ交流を続け、またイスラエルのみならずパレスチナ自治政府も糾弾すべき時は糾弾するため、両者から逮捕拘禁されるなど弾圧を受けてきました。

番組の最後には、今回のイスラエルによる空爆により自宅を失い、家族と避難を続けるスラーニさんの肉声が流れますが、その中で彼は「私たちに諦める権利はない」と語ります。

この言葉を受けて、聞き手である作家の徐京植(ソ・キョンシク)氏が、これまで長きに亘り蹂躙され続けてきたガザの人々の窮状を見て見ぬふりをしてきた国際社会や自分自身を恥じるとともに(ただ実際には徐氏は長年ガザの人権問題に深くコミットしてきたわけですが)、ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの「人間としての恥」という言葉を紹介する締めくくりのメッセージは必見です。

いじめやパワハラなど、あらゆる生きにくさや不幸の元凶は、人間としての「尊厳」が脅かされていることにあると思います。

たとえ戦火に晒されず衣食足りた社会に生活していたとしても、人としての尊厳が脅かされる限り、その人生は戦場以上に不毛で苦痛に満ちたものとなります。

番組終盤に交わされる、徐氏の透徹した普遍的な問いかけと、それに真摯に応えるスラーニ弁護士との対論は、尊厳を(ないがし)ろにし無関心を決め込んで闇へと沈み行く現代を、高邁で強靭な精神と温かく血の通った人間愛という光で照らします。

ガザにいるスラーニ弁護士とは10月下旬以降、11月5日現在連絡が途絶えているとのことですが、ご無事を心からお祈りしています。

 

 

  (画像出典:1番目「Photographer: Said Khatib/AFP/Getty Images」 2,3番目「NHK」)