ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑先生が、開発に関わったガン治療薬の特許使用料をめぐり製薬会社を訴えていた裁判は、製薬会社が本庶先生に50億円を支払うとともに、京都大学に230億円の寄付を行うことで、12日和解が成立しました。

本庶先生はこれまで、研究者があげた成果が社会で正当に評価され、その成果が生み出す富が企業からの資金や寄付というカタチになって日本の“基礎研究”に還流し発展を支援するモデルを作りたいと、長期にわたる裁判を続けて来ました。

ここまでの道のりでは、思いがけぬアクシデントに見舞われることもあり、遠くから祈る思いで推移を見守っていた者の一人として心痛むこともありましたが、本庶先生はそんな時もまったくブレることなく、敢然と粛々と裁判を進めて来られました。

今回の和解成立は、本庶先生の座右の銘である「有志竟成(ゆうしきょうせい=志を堅持すれば、思いは必ず叶う」を、まさに具現した内容であったと思います。



実は本庶佑先生には先月、私が主催する政策研究会で2014年以来、二度目の講演をいただいたばかりでした。

たしか一回目の講演の後に本庶先生から、「心ならずも製薬会社と係争になってしまいそうだ」というお話を伺っていたので、本当にここまでの道程が長かったことが思い起こされます。

先月の講演会後の夕食の折、先生から間もなく和解成立となるというお話を伺ったのですが、その際ちょっとはにかみながら
「NHKの『逆転人生』っていう番組があるじゃないですか。あれだって最後に勝つからドラマになるんで、失敗だけ続けてたら、やっぱり話にならない」と言って浮かべられた、澄んだ笑顔が印象的でした。

「それにしても、なぜこんな面倒な係争を続けられたんですか?」と私が問うと、

「日本でも正しい主張が正しいと認められる姿を、後進の研究者たちに示しておきたかった」と即答され 、あらためてその志の高さ、意志の強さに息を呑みました。


その夕食会の帰り道、なぜか私の胸に一つの曲が去来しました。

尾崎豊の「僕が僕であるために」。
 

このサビのフレーズ

僕が僕であるために、勝ち続けなきゃならない。
正しいことがなんなのか、それがこの胸に分かるまで

という歌詞が、本庶先生の姿と重なって感じられたのだと思います。
 

 

どんなに世の中が不条理であっても、自分が自分でありたいと願うなら、人は闘い続けねばならない。

そのことを、本庶先生の生きる姿勢から学ばせていただいた今回の和解劇でした。

 

 

 

 <画像出展:毎日新聞>