オリンピック・パラリンピックは、出場選手のためだけに開催されるものではない。

 

ましてや、五輪大会から生じる様々な利権に絡む組織や個人のため、あるいは国家の面子(メンツ)のために開催されるものでもない。

 

五輪大会とは、人間の限界に挑戦し努力を続け試練を乗り越えるアスリートの姿に、国家や人種、宗教やイデオロギーといったあらゆる違いを超えて世界中の人々が、人類共通の普遍的な価値と感動を共有し合うことにより、平和で心豊かな社会を地球上に実現することにある。

 

「オリンピック憲章」にも次のように明記されている。

 

オリンピズムは人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。

 

スポーツを文化や教育と融合させるオリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などに基づいた生き方の創造である。

 

オリンピズムの目標は、スポーツを人間の調和のとれた発達に役立てることにある。その目的は、人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある。

 

(「2011年版オリンピック憲章」

 日本オリンピック委員会)

 

 

今、地球上で様々な「分断」が深まり、コロナによって多くの人々がかつてない苦境に立たされる中、壮絶かつ不断の努力を重ね試練を乗り越えたアスリートたちの躍動する姿は、何にも代え難い感動と生きるための勇気、そして苦難に負けないための「レジリエンス」を、世界中の人々にもたらすものである。

 

 

 

しかし現在、変異を繰り返すウイルスはさらにその脅威を増し、一方ワクチンの恩恵に浴している地域は限定的で、大会開催には様々なリスクが伴う。

 

こうした非常事態にもかかわらず大会を開催するというのであれば、主催者は開催に伴うリスクとベネフィットをどのように認識し評価しているのか、つまり開催によるベネフィットがリスクよりも確かに優っているということを、科学的なエビデンスを示して証明し、人々が納得するよう論理的に説明しなければならない。

 

しかし残念ながら東京五輪開催について、ベネフィットとリスクに関する客観的評価はおろか、論理的で科学的な説明というものを、総理および五輪担当大臣、大会組織委員長、そしてIOC幹部のいずれからも私は聞いたことがない。

 

毎日耳にタコができるほど聞かされ続けているのは、「安心安全な大会運営に全力を尽くす」という空疎で具体性の欠片もない単なるスローガンのみだ。

 

大会開催によって生命や生活へのリスクを負わされる人々に対し、大会や開催国そして主催地の代表が仮にも「安心安全」を口にしそれを保証するというのであれば、その言葉はデータやエビデンスによって裏打ちされた「実」のある安心安全でなければならない。

 

空疎な「名」ばかりを繰り返し、具体的な「実」を伴わない、為政者や大会責任者たちの言動ほど「信」を損なうものはない。

 

自粛だ人流抑制だと、ダラダラと際限もなく市民に我慢を強い、多くの店や会社を閉店や廃業に追い込み、生活困窮者を街に溢れさせておきながら、パブリックビューイング用の建設工事を始めるような為政者の言葉を、いったい誰が信じるというのか?

 

東京五輪開催への逆風とは即ち、大会責任者たちへの不信感そのものだ。

 

 

 

しかしその憤りに任させて東京五輪を完全に中止してしまうことが、果たしてベストの選択なのだろうか。

 

困難が立ちはだかった時、諦めてしまうのは容易い。

 

しかしどうにかしてこの難関を乗り越えることはできないものかと死力を尽くすところに、人類に限らず生きとし生けるものの進歩や向上があるのではないだろうか。

 

冒頭にも述べたように、五輪大会という特別なイベントには、国家や民族、人種や宗教、イデオロギーetc.を超えて全世界を一つに繋ぎ結ぶ何にも代え難い力がある。

 

コロナ禍という今、困難に直面する人々を勇気づけ励ます力、運命に打ち克ち人生を諦めず社会を前進させる力を、オリンピック・パラリンピックは今こそ世界中の人々に与えることができる。

 

そうした「五輪の力」を安心安全の下に発現させるため、以下の実行を政府・東京都およびIOCに提言する。

 

1.開催の3ヶ月延期

 

 日本国内でのワクチン接種が急速に進ん

 でいる現状を鑑みるに、3ヶ月後の開催で

 あればワクチン接種は日本全体で一定

 程度進み、リスクは現行の開催に比し

 かなり軽減すると予測される。

 

 東京五輪が世界人類のためにどうしても

 必要なイベントであるのだとしたら、場合

 によっては北京冬季五輪も延期して

 もらうべきだろう。

 

 「3ヶ月延期か、さもなくば中止」という

 不退転の覚悟を持って、総理と都知事

 そして組織委員長はIOCに対し政治生命

 を懸けて談判すべきである。

 

2.人流の最大限抑制

 

 無観客開催を原則とするも、もし観客を

 一部収容するというのであれば、公共

 交通機関は使用しないで来場できる者

 に限り来場を可とし、大会実施による

 国内の人流は極力抑制する。

 

3.大会関係者の徹底したPCR検査と行動制限

 

 競技関係者はもちろん、各国からの取材

 関係者も含め、全員毎日PCR検査を実施

 し、完全なバブルを担保できるよう行動

 制限を徹底する。

 

4.大会関係者による宴会・接待の禁止

 

 IOC幹部やオリンピックファミリーなどの

 来日は本人のみとし、宴会や接待は厳禁、

 行動範囲は競技会場と宿舎間のみに制限

 する。

 

 

 

ピンチこそ、改革の最大のチャンスだ。

 

拝金主義に堕し、特定の人間たちにその利権が牛耳られてしまったオリンピックを、クーベルタン男爵が提唱したようなあるべき姿に戻すことー

 

コロナ禍での東京五輪開催を「オリンピック改革」最大のチャンスととらえ、未来の人々から賞賛される真のレガシーを是非残してもらいたい。

 

 

 

 

(最後の画像:HALF TIME)