隈研吾先生が、ご自身の建築家人生の転機になったと語る作品が二つあります。

 

一つは、今回の講演会冒頭に紹介された「那珂川町馬頭広重美術館」。

 

そしてもう一つが、世界に“建築家・隈研吾”の名を轟かせることとなった、中国は万里の長城脇にある「竹の家」です。

 

 

日本では、吉永小百合さんが出演したコマーシャルでご覧になった方も多いと思いますが、北京オリンピックの際には、世界的な映画監督であるチャン・イーモウ氏演出による開会式ビデオに、この「竹の家」が中国を代表する建築として画面いっぱいに映し出され、世界中に配信されました。

 

万里の長城と同様、龍のようにうねる傾斜地を造成せずそのまま利用し、周辺の緑もできる限り保存して建てたこの作品、実はホテルでもちろん宿泊もできますが、このように特殊な地形に沿って建物を建てる工法を、隈先生は万里の長城から学ばれたそうです。

 

 

 

「竹の家」はその名の通り、室内の壁も床も天井もすべてが“竹”。

 

 

 

外壁まで竹製のルーバーで被われていますが、実はここまで竹を活かせる技法は中国にはないそうで、隈先生はこの工法を地方の里山での建築を手がける中で、現地の職人さんから学ばれたとのことです。

 

「建築には強烈なコンセプトが大切」と語られる隈先生ですが、中国からこの仕事の依頼を受けた際、まず竹を使うことが頭に閃いたそうです。

 

というのも、「竹林の七賢」の故事にも見られるように、古来から中国で竹と言えば、都市の喧騒と煩雑な人間関係を離れて“脱・都市”的な哲学・ライフスタイルを象徴する聖なる植物。

 

“脱・都市” “脱・(ハコ)”を標榜し具現化する隈先生の建築コンセプトを表現する上で、竹ほどうってつけの素材はなかったわけです。

 

しかも、現地で竹はものすごく安く調達できたとのこと。

 

「竹の家」は、今や世界20ヵ国以上でビッグプロジェクトを展開する建築家へと、隈研吾先生を飛躍させた代表作です。

 

 

 (4)につづく・・・