作新学院高校の生徒2人が考案した「算額」が、7月11日宇都宮市の蒲生神社に奉納され、学業成就を祈念して奉納式が行われました。

 

 

「算額」とは、「和算」の問題や解法を額や絵馬に記して、問題が解けたことを神仏に感謝し、益々勉学に励めますようにと祈って神社や仏閣に奉納するものです。

 

 

ちなみに「和算」は日本独自に発達した数学で、江戸時代後期に日本中で数学ブームが起き、中でも「算聖」と謳われる関孝和が世界に先駆けて行列式や終結式の概念を確立するなど、和算を実用数学から高等数学へと昇華させ大成させました。

 

 

このような算額奉納の習慣は世界を見ても他に例がないようで、明治維新によって西洋から最新の技術や知識がもたらされた際も、算額奉納の風習に象徴されるような日本人の基礎学力の高さや、高度で多様な基礎学問の(いしずえ)があったからこそ、西洋文明を迅速かつ的確に理解し導入することが可能になったと言われています。

 

ちなみに算額の奉納先である蒲生神社が、学問の神として祀る蒲生君平も江戸後期の儒学者で、歴代天皇の陵(みささぎ=墳墓)を調査して『山陵志』という著書にまとめた尊王論者、海防論者としても知られています。

 

 

「百舌鳥(もず)・古市古墳群」の世界文化遺産への登録が決定されたことも追い風となって、世の中はちょっとした古墳ブームですが、こうした天皇陵に「前方後円墳」と名付けたのも蒲生君平だと言われています。

 

同時代に生きた林子平や高山彦九郎と共に、「寛政の三奇人(奇は優れたという意)」の一人に数えられる、宇都宮が生んだ偉人です。

 

さて、そうした偉大なる先達に算額を奉納したのが、本学トップ英進部2年生の()(しの)彩華さんと山口(はるか)君。

 

 

二人は放課後に月一回ほど開かれている数学研究会に参加し、指導教諭の提案で和算を学び、数問の作成に取り組みました。

 

問題の文章も江戸時代の様式にのっとって、自分たちで漢文に仕上げ奉納したそうです。

ちなみに書き下し文にすると、右の数問は、

 

 半径1の円の内部で、長さ√2の弦甲と、長さ√3の弦乙が直交している。

 

 問  甲および乙の長さとcos15°の値を求めよ。

 

 左側の数問は、

 

 三角形の垂心を甲、三角形の外心を乙とする。

 

 中円の面積は、小円の何倍か。

 

 

昨今は、学問にも短期間で目に見える結果が要求され、“学を楽しみ、知に遊ぶ”ようなリベラルアーツ的気風が否定されがちです。

 

けれど、むしろそうした近視眼的で功利的な考え方が、日本の科学技術やイノベーションの発展を阻害し、この国を経済的にも精神的にも貧しくしているのではないかと思えてなりません。

 

ただそうした中、関孝和や蒲生君平たちの学問への情熱が、江戸時代から脈々と現代の子どもたちまで受け継がれていることを今回の算額奉納で知り、とても心強く感じました。

 

 

実は算額奉納の数日前に、生徒たちが毎年「学業成就祈願」でお世話になっている京都の北野天満宮へ参拝したところ、なんと完全な形で現存する“世界最古”の算額が奉納されていることがわかりました。

 

北野天満宮に奉納された最古の算額とはどのような額で、どのような経緯で発見されたのか。

 

なかなかドラマチックなエピソードを禰宜様から伺ったのですが長くなりますので、次回「“学を楽しみ、知に遊ぶ”(2)」で詳しくお伝えしたいと思います。