昨日(9日)、TSUTAYAで借りたDVDを見ていた。


これは、(例によって)黒澤明監督の(70年前の)1950年公開の映画で『醜聞(スキャンダル)』という作品。
東京・京橋の『国立映画アーカイブ』で12月18日と24日に(スクリーンで)上映される予定になっている。
12月12日からスタートする<生誕100年 映画女優・山口淑子>特集の一環としての上映だ。



私は、まだ前売チケットを購入していない(最近のコロナ感染拡大もあるし、逆に『国立映画アーカイブ』は国策?に沿って12日以降は、観客を定員100%まで入れると言っているし…)が、他方、最近、『TSUTAYA』などで借りられる黒澤明監督等の旧作は、できるだけ(DVDや動画配信等で)見てやろうという気になっている。

そこで、昨日(9日)、ちょうど返却期限が迫っていたものであわてて見ていた。


するとこれは、『感動もの』の作品だった。
 

というのは、(以下、ネタバレ気味だが…)筋を多少、紹介すると。
(小林信彦著『黒澤明という時代』や都築政昭著『黒澤明「一作一生」全三十作品』などを使いながら)
<オートバイ愛用で有名な画家・青江(三船敏郎)が美しい声楽家・美也子(山口淑子)と山の上で出会い、歩いて登ってきた(?)彼女を青江は伊豆の温泉まで送る。>

この過程で、見方によってはスキャンダラスな逢引きの現場とも解釈できうるような写真を雑誌のカメラマンたちによって撮られてしまう。

カメラマンと契約しているのは、『アムール社』といういかがわしい雑誌社であって、そこの編集長が小沢栄(後の小沢栄太郎。本名が小沢栄太郎で、何度も改名をしている)で『口がよく回る、ワルの代表者』のような人物である。

彼が写真を見て『これは売れる』とばかりに適当な記事をでっち上げさせて、『恋はオートバイに乗って』と大見出し入りで、ジャンジャン雑誌を発行する。大儲けである。

義憤にかられた三船(青江)は、この雑誌社を告訴することを決意する。



この映画、主演が三船敏郎ということになっているが、真の主役は志村喬(蛭田弁護士の役)である。
彼は、三船が『アムール社』を相手取って起こす『名誉棄損・損害賠償裁判』の代理人を引き受けるが、同時に小沢栄に三船の側の情報を売って、競艇につぎ込むお金をもらったりしている。

この志村喬の『裏切り行為』によって、裁判はなかなかうまくいかないが、一方、志村喬(蛭田弁護士)には、『純粋な魂』の娘(結核で死に瀕している)がいて、この娘と三船敏郎や山口淑子(声楽家の美也子)が親しくなる。

(途中から、声楽家の美也子も青江とともに、提訴に踏み切る。)


その結果、『裁判の行く手やいかに…』というのが、この映画のストーリー。
(山口淑子特集で上映される予定の映画だが、山口淑子には、さほど出番はない。)
また、黒澤明自身が、『蝦蟇(がま)の油』という自伝(黒澤明が、68歳のころ、『週刊読売』に連載したもの。のちに岩波書店より単行本が発行された)にいろいろこの映画のことも書いていて、面白い。

この映画は、途中から、三船と山口淑子の話はどこかに行ってしまって、志村喬(蛭田弁護士)という、矛盾に満ちた弱い人間の物語になってしまう。

この辺は、純粋に脚本としては、『どうかな?』と思わせる部分だが、映画としては実に面白い。
 

なぜ、こんな展開になってしまったのかというと、黒澤明は『蝦蟇の油』のなかで、『登場人物、特に蛭田弁護士が勝手に動き始めてしまったため』などと書いているが、このような『勢い』といったものが、(ある種の映画にとっては)非常に大事だという気がする。
(後の黒澤映画作品は、脚本家ばかり大勢集めて、『ああだ、こうだ』といじくり回すなかで、このような『勢い』を自ら殺してしまうような映画が結構、あったような気がしている。)

それで、昨日このDVDを見た後は、是非、『国立映画アーカイブ』のスクリーンでこの映画を見てみたいものだと思ったのだが、その後、昨夜いろいろ黒澤明関係の本などを読んでいくと、多少、気が変わってしまった。
(つづく)