魚が掛かっての当初はそれ程大きなサイズのマグロではないのでは、と思ったのだが、トルクのある引き具合のままボトム付近にへばりつくようにしてラインを引き出して行く。
ポールは少々魚のサイズが大きいと感じたのか、かかりっ放しのエンジンのギアを前進にシフトさせて魚を追いはじめたのだった。
マグロ以外の獲物と踏みちょっと手強そうだと判断した時、ポールはボートを移動して魚をなるべく早く取り込もうとする。
時には魚を中心にしてボートで円を描くように周り続けることもある。
堪らず魚は浮いてくるのだが、タックルの強度が足りずにロッドが折れてしまったり、ラインを切って正体不明のままの魚はこれまでずいぶん目の当たりにして来た。
そういう魚は自分ではなく大抵の場合、宮原さんに掛かることが多い気がする。故に宮原さんの用意してくるタックルには常に最強のものが混じっている。
だが今回ポールは「ロングテールツナ」と決断を下してからボートを動かし始めた。
リールからラインを引き出しながら走り続ける魚、ボートは魚の泳ぐスピードに合わせて操船されるが、ボートのスピードが速くなるとリールのハンドルを最速で巻いてもロッドにテンションがなくなりかけそうになる。
ポールは常に目を光らせていて、そんな時にはもっと速く巻けと檄を飛ばす。
そしてボートが止まったところで魚の走る方向と反対の方向にロッドを寝かせてプレッシャーをかけろの指示を出す。
マグロ釣りに限らないのだが、ポールはロッドを立てての魚とのファイトを許そうとしない。魚によってはジャンプ一発でバレてしまう可能性が大きいのと、マグロの場合にはとにかく魚の走る方向と逆にテンションをかけることにより、魚を疲れさせるのが最大の目的だ。
操船とロッドワークのプレッシャーで遂にマグロは表層に姿を現したのだった。