真田広之が魅せる 時代劇の世界 〝ちっともカッコよくない真田広之〟つましく暮らす当時の人々の姿そのもの、「たそがれ清兵衛」(2002)
注目の配信ドラマ「SHOGUN 将軍」で老練な存在感を示した真田広之(63)は、時代劇では長く千葉真一と共演した映画「魔界転生」や「里見八犬伝」などアクション全開のイメージだった。
真田の演技力が時代劇で高く評価されたのが、2002年の映画「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督)だった。
真田が演じたのは、幕末、庄内の海坂藩の下級武士、井口清兵衛。妻を亡くし、2人の幼い娘と老母を養う彼は仕事が終わるとつきあいを断り、すぐに帰宅するため、〝たそがれ清兵衛〟と陰口を言われている。
マイペースで生きる彼のささやかな喜びは思いを寄せる幼なじみの朋江(宮沢りえ)が娘たちの世話をしてくれること。
だが、ある日、清兵衛は小太刀の遣い手であることを見込まれ、藩内の争いから切腹を命じられながら、脱走した藩士、余吾善右衛門(田中泯)を討つよう命じられる。
ベテラン山田監督がこだわり抜いた初時代劇映画。
真田にとって初の山田作品だった。
クライマックスの清兵衛と善右衛門の民家での一騎打ちは突く、斬る、たたく、リアルですさまじい。
この殺陣の撮影に10日間を費やしている。
本来、舞踏家で映画初出演だった田中に真田がアイデアを出す場面もあったという。
本作には他にも名場面は多い。
そのひとつが朋江の暴力夫で、離縁されたことを逆恨みした豊太郎(大杉漣)と清兵衛の果たし合い。
居合の達人である豊太郎を清兵衛は短い木刀1本で見事打ち負かす。
居合は一瞬勝負。
その集中力と無駄のない動きは若き日に荒野を走り回ったアクション映画とは一味違う緊張感だった。
この映画の真田は、月代が伸び、裃もよれよれで、外見はちっともカッコよくない。
豊太郎には「平侍の分際で生意気な」とせせら笑われる。
だが実はそこが一番大事なところでもある。
山田監督が描きたかったのは、剣の達人の清兵衛ではなく、つましく暮らす当時の人々の姿そのものだったからだ。
監督は「心がにじみ出るように演じてほしい」と指導したという。
無口で不器用な清兵衛の生き方を通して、幸せとは何かを伝えたこの作品は米アカデミー賞「外国語映画賞」にもノミネートされた。
(時代劇研究家・ペリー萩野)
■ 真田広之(さなだ・ひろゆき)
俳優、歌手、武術家。1960年10月12日生まれ、63歳。
東京都出身。子役を経て、73年にジャパンアクションクラブに入団。
78年、「柳生一族の陰謀」に出演以降、アクションスターとして活躍。主な出演作は「麻雀放浪記」「リング」「たそがれ清兵衛」「ラストサムライ」など。
「たそがれ清兵衛」 2002年11月2日公開。
主題歌は井上陽水「決められたリズム」。
<記事引用>