ヴァンジ美術館が県に無償譲渡 公設民営で
運営検討
<写真>、、、ヴァンジ彫刻庭園美術館に展示されている彫刻
2022年2月26日、静岡県長泉町、南島信也撮影
9月末に閉館した静岡県長泉町の旧ヴァンジ彫刻庭園美術館が、県に無償譲渡(寄付)されることが県議会12月定例会で決まった。
美術館を運営する法人がコロナ禍で経営が行き詰まり、県に譲渡を打診してからおよそ2年。
民間の力を生かしながら運営していくことで決着した。
同美術館は2002年、富士山を望む2万4千平方メートルの丘陵地に開館した。
一帯はベルナール・ビュフェ美術館などともに「クレマチスの丘」と名付けられ、四季の花々が咲く庭園に、イタリアの現代彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの彫刻作品が屋内外に点在する。
かつては年間6万2千人が訪れていたが、コロナ禍で経営が行き詰まり、21年9月期の赤字は約1億3千万円に。
同年11月、県に無償譲渡を含む運営支援を要望した。
県は外部有識者による検討会を設置し、施設の評価や活用の方向性、課題を検討した。
美術品の賃借関係を解消し、公益性と収益性の両立を図るといった条件付きで「譲渡受け入れの価値がある」との報告書をまとめた。
彫刻作品は世界的な評価は得ていないが、「最大の魅力である庭園を強力に打ち出すべきだ」とした。
県東部に公立の文化施設が乏しいことも考慮された。
さらに、東部3市2町と広域的な活用案を考える検討会議を設け、「新たな文化施設」にする構想をまとめた。
子どもや障害のある人の芸術体験のほか、演劇や音楽など幅広い発表の場として使うとともに、庭園など施設を貸し出して収益を得る構想を練る。
だが、赤字施設を抱えるだけでは財政負担が増えかねない。
入館料500円で県が試算した維持運営費は年間約9千万円。
県議会では、不祥事があったスルガ銀行の創業家が開館した美術館というマイナスイメージへの懸念に加え、「赤字施設受け入れの前例になりかねない」などと反発が出た。
このため県は9月県議会文化観光委員会で、民間への運営権付与や指定管理者制度などで「民間活力を取り入れた施設運営を検討」との方針を提示。
12月県議会では、維持管理費などを盛り込んだ関連議案が可決されたが、第2会派で知事に近い「ふじのくに県民クラブ」の議員から「公設民営を強く訴える」との念押しの意見も出た。
県も、県の支出を抑えた運営を想定し、民間に積極的な関与を求め
たい考えだ。
公立美術館は美術品の収集管理などは行政が、広報や展示監視などは指定管理の民間事業者に委託するケースが多い。
ただ、民間が担える範囲が限られ、長期的な運営ができないなどの課題も指摘されている。
「県民だけでなく県外からも人を呼べる最適な方法を考えたい」(文化政策課)としている。
今後は、地元市町や産業界などとネットワーク組織をつくり、民間事業者などから聞き取りをして具体的な利活用計画を策定する。
文化施設のオープンは25年度以降になる見通しだ。
大阪市が建て、民間に運営権を設定した「PFIコンセッション方式」で22年2月に開業した大阪中之島美術館の菅谷富夫館長は、市の建設準備室で長年勤務した。
美術館に併設するカフェなど収益部門のノウハウは民間にあり「文化施設を自立して運営するのは行政の発想だけでは難しい」とする一方、単なる観光施設にしないことも重要だと指摘する。
「これまで積み重ねた美術体験の場としての財産をゼロにせず継承できるのが望ましい」と話す。
(田中美保)
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■ ヴァンジ彫刻庭園美術館をめぐる経緯
2002年4月 美術館が開館
21年11月 美術館が知事に無償譲渡を含めた存続支援を要望
22年5月 県の有識者検討会が譲渡受け入れの報告書をまとめる
12月 県が活用コンセプト案を県議会に報告。美術館が休館
23年3月 県と東部3市2町が広域的な活用を検討する構想案をまとめる
9月 美術館が閉館
12月 県議会で関連予算が可決し、24年1月末の無償譲渡が決まる
<記事引用>