またヘリ墜落に様々な懸念 岸田首相よ、米国のために武器だけ増やしてどーすんのか

2024年4月23日 日刊ゲンダイ1面 

 

 

安全保障環境の悪化が喧伝される中、国防の要でまた痛ましい事故が発生した。伊豆諸島の鳥島東方海域で、訓練飛行中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落。搭乗していた計8人のうち1人が死亡した。海自と海上保安庁は行方不明となっている隊員の捜索を続けている。

 事故が起きたのは20日深夜。海自護衛艦隊部隊トップの護衛艦隊司令官が定期的に部隊の作戦能力を確認し、評価する「訓練査閲」の最中だった。第4護衛隊群(広島県)所属の第4護衛隊(同県)と第8護衛隊(長崎県)を中心とする計8隻の艦艇と潜水艦1隻、ヘリ6機が潜水艦を探知する「対潜水艦戦」の夜間訓練に参加していた。

 回収したフライトレコーダー(飛行記録装置)は海自厚木航空基地(神奈川県)で解析が進められているが、木原防衛相は22日の会見で「現時点で、飛行中の機体に異常を示すデータはなかった」と説明。2機が高度の間隔や距離の確保を誤り、衝突したとの見方が強まっている。2021年に鹿児島沖で発生した2機接触事故を受け、海自が講じた再発防止策は徹底されていなかった可能性が高い。NHKによると、事故機は「僚機間リンク」がつながれていなかったという。通信システムで互いの位置を把握し、接近時に警報音が鳴る仕組みだ。なぜ安全管理がキッチリなされていなかったのか。疑問だらけだ。

 

防衛費倍増でも予算不足

 自衛隊機の死亡事故は毎年のように発生している。

 昨年4月には沖縄県宮古島付近で陸自のUH60JAヘリが墜落。搭乗していた10人全員が殉職した。陸自の航空事故として過去最悪の死者を出したにもかかわらず、防衛省が3月に発表した調査結果は中途半端。2基あるエンジンのうち1基で出力が徐々に低下する「ロールバック」と呼ばれる現象が起きて稼働が止まり、残る1基の出力も下がって高度を保てなくなり、墜落したと結論づけた。しかし、墜落に至った直接の原因は「証拠がない」として特定できなかった。それで十分な再発防止策を打ち出せるのだろうか。

 1年後に起きた海自の事故で指摘されているのは訓練不足だ。海洋進出を強める中国、核・ミサイル開発を強行する北朝鮮に対応するため、出動機会が増加。訓練機会が減って、練度が下がっているというのである。もうひとつの問題が予算不足だ。集団的自衛権の行使を容認した戦前回帰志向の第2次安倍政権以降、防衛費は過去最高を更新し続けているのに、なぜカネが足りないのか。

 軍拡路線を引き継ぐ岸田政権は22年末に安保関連3文書を改定し、防衛費はGDP比2%に倍増。27年度までの5年間で43兆円に膨らんだ。積み増した予算はどこへ流れているのか。何のことはない、米国の軍需産業に向かっているのである。

 

安保政策の大転換で陸空海とも臨戦態勢

軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう指摘する。

「岸田首相が胸を張っているように、日米同盟はどんどん強固になっています。安保3文書の改定で敵基地攻撃能力の保有を明確に打ち出し、安保政策を大転換させた。結果、盾と矛の関係だった自衛隊と在日米軍は同質化。矛の役割も果たすこととなった自衛隊は米軍を頼れず、事実上の臨戦態勢にあるのです。空自は頻繁に発生する防空識別圏侵入に対応しなければならず、海自の活動範囲はインド太平洋に拡大し、陸自は南西シフトを加速させている。日本周辺での有事に備え、緊急即応体制をとっているのが現実です。ところが、自衛隊は慢性的な人手不足で、充足率は92.2%(23年3月末時点)。任期制自衛官に限れば充足率は大幅に下がる。少子化時代にあって、人材確保の厳しさは民間企業以上のものがある。マンパワーが足りず、訓練は小規模化を強いられています」

 軍国主義路線をひた走る岸田首相の在職日数はきょうで933日に達し、戦後の首相で8位になった。国是である専守防衛の逸脱、そして憲法をないがしろにする点では安倍元首相に並ぶ戦後最悪のトップと言える。防衛費倍増の褒美で国賓招待された訪米に先立ち、手土産とばかりに防衛装備移転三原則を閣議決定で骨抜き。バイデン大統領との首脳会談では自衛隊と米軍の指揮統制の連携で合意し、米英豪の安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」にも「協力」という形で引き込まれた。つまり、遠からず自衛隊は米軍の指揮下に入り、日本が西側軍事同盟に仲間入りするということだ。

靖国集団参拝の裏の恐怖

 自衛隊員が足りない中、中国の脅威をことさらに煽り、米国の要求に唯々諾々と応じて防衛予算を倍増。それをタネ銭に米国製武器を爆買いしたところで誰がそれを扱うのか。

 岸田に真正面から問いたい。米国のために武器だけ増やして一体どうするのか。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。

「岸田首相は喜色満面で臨んだ米議会演説で〈日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです〉とブッたのが象徴的です。自衛隊が米軍の指揮下に入れば、紛争地に連れて行かれ、使い捨てにされる事態が現実味を増す。陸自や海自幹部らが靖国神社に集団参拝していたことが明るみに出ましたが、善し悪しは別として、彼らが命の危険をひしひしと感じているからでしょう。戦争に明け暮れた20世紀を教訓に、21世紀の世界は紛争解決手段として対話を重んじてきた。欧州にEU、東南アジアにはASEANが誕生したことで、それぞれの地域では軍事衝突が起きにくくなりました。ところが、そうした枠組みのない東アジアでは中国や北朝鮮が軍事力を誇示し、あまつさえ日本まで対抗しようと腕まくりしている。裏金事件で派閥が鳴りを潜めた自民党では総裁に権限が集中し、怪物的な独裁者が生まれる素地ができた。時代錯誤の岸田首相を延命させれば軍国化に歯止めが利かなくなります」

 平和憲法をなげうったツケは終わりなき軍拡、自衛隊の疲弊、やがて徴兵制を招くことになりかねない。

「人手不足のため、自衛官の定年は昨年から段階的に引き上げられていますが、それでも大半が50代半ばで退職します。任務の性質上、高齢では務まらない。けれども、穴埋めは容易ではありません。兵器がハイテク化しても、それを使いこなす人材を育成しなければ意味をなさない。自衛隊に対する国民的な信頼を醸成した災害派遣もいつの日かできなくなる。私は是としませんが、このままいけば徴兵制も視野に入れざるを得なくなるでしょう」(世良光弘氏=前出)

 この国のそんな行く末に誰が納得するのか。岸田政権を、自民党をよしとするのか。衆院3補選の投開票は28日。唯一、与野党一騎打ちの構図となった島根1区からノーを突きつけなければ、お先真っ暗だ。

 

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