〜 12月 〜
12月になった。
原川がまた、爆弾発言を炸裂させた。
「一旦、球部にします。」
・・・・・・・・・・??????
「ちょ、ちょっとなに言い出すんですか。」
「待ってください。」
一瞬、我が耳を疑い、慌てふためく選手たち。
「まあ、まあ。そう慌てないで。」
笑いながら原川は、言葉を続けた。
「冬季限定入部制度ってやつを立ち上げたんですよ。毎年、この時期、冬トレってやってたでしょう。ただ走ったり、筋トレしたり。今年もそれをやります。やるんだけど、今年は野球部としてはやらないってことです。野球部以外の好きな部活に、みんな冬季限定で入部してやって下さい。各部活の顧問の先生とキャプテンには、話を通してますから。みんな明日までに、どの部活に入って冬トレをやるか決めて来て下さい。」

原川は常々、高校生が、18歳くらいの青年が、野球だけに専念して、それしかやらないということに対して、疑問を感じている。もっと他の競技もやっほうが良いという考えを持っている。シーズンが終われば他の競技に触れ、野球以外の身体の動かし方、眼の付け所など、野球では体験しないことを体験して欲しいと思っている。そうすることで、身体も心もリフレッシュできる。一旦野球から離れることで、野球に対する情熱もまた、一層燃え盛るものになるのかもしれない。そんな風にも思っている。
翌日、選手たちはそれぞれに冬季限定入部の希望を考えて来ていた。
1番人気はバスケ部。以下、サッカー部、陸上部、卓球部、ラグビー部と続いた。
バスケ部は、主に内野手の選手が入部していた。ハンドリングの向上にはもってこいだろう。サッカー部、陸上部は投手陣と外野手たち。足の速さを自慢にしている選手が陸上部に入部しているようだ。
投手陣なら、しっかりと走り込むことだろう。俊足自慢の選手たちは、速く走る走り方を徹底的に勉強して欲しい。野球選手にとって脚が早いということは、絶対的な武器になるのだが、野球選手で走り方を学ぼうとする選手は、ほぼいない。こういう機会に勉強して欲しいということを原川は選手たちに伝えた。
卓球部にも数人が集まった。卓球は、動体視力を鍛えるためにはかなり有効だと、原川は考えている。
このように、それぞれの競技が、なんらかの形で野球選手の身体にとって良い影響を与えることになる。選手たちには、それぞれの部活動で、その競技から得られるもの、意識しておいて欲しいことを伝えた。
「それでは、野球部は一旦休部。次の集合は2月1日とします。」
野球解禁の日は、2月1日。プロ野球のキャンプインに合わせた。
こうして、12月と、1月の2ヶ月間。
宮古高校野球部は、休部となった。