『ひゅううううが貴方達を次の土地へと導きます。私は貴方達と共には行けません。けれどもあの方がずっと貴方達を見守っています。』
昔、母に言われた言葉。自分がその立場になった今、痛いほどわかる。もどかしさや悲しさ、悔しさと優しさが混じり合いながら彼らはひゅううううに飛ばされて行く。
「なぜ母さまは来ないの?」
「どうして母さまは泣いているの?」
声が現れては、消える。
ーーさようなら、さようなら。
ひゅううううが貴方達を次の土地へと導きます。私は貴方達と共には行けません。けれどもあの方がずっと貴方達を見守っています。
さようなら、さようなら。
私の可愛い子供達...
さようなら......
もうすぐ私は彼らの様に、見えない羽で飛び立つでしょう。大きな空へ、あの方の一部となって、いつまでも...貴方達をそっと見守ります。
風の強い日にそっと耳を澄ますと、ひゅううううという風の音の中に小さな悲しい歌が聞こえてきます。
ーーさようなら、さようなら。
幾つも、幾つも。
空を見上げると、無数の小さな綿毛達が旅を始めているのです。彼らはどんな人生を歩んでいくのでしょう。あの歌は悲しいだけでなく、どこか希望の光を感じます。
気づくと風は穏やかになり、あの歌も消えてゆきました。私達を見守っているかのように、太陽だけが静かに輝いて......
ひらりと掌に小さな綿毛がひとつ、舞い落ちて来ました。私はそれをふう、と空へ飛ばすと、高く...高く...太陽の方へと走って行きました。