いつしか空が明るくなっていた。夏の夜は短い。見ると僕の周りには消えた筈の部長やビビリ、部員達がいた。彼女の姿はもう見えなくなっていた。
「おい、坂田!大丈夫か?お前、急にいなくなったかと思えばこんなとこで寝て、風邪引いたらどうすんだよ。」
部長が心配そうに僕をゆする。僕は一つ、気になったことを聞いた。
「特集は、どうなりましたか?写真は撮れたんですよね?」
すると皆困ったように笑った。僕が首を傾げると部長が口を開いた。
「何も、写ってねーんだよ。確かに撮った筈なんだけどなぁ。まあ、お前が無事で良かったよ。」
「部長がこんな肝試しみたいな特集組むからこうなったんですよ。」
ビビリが言う。部長は鼻の頭を掻いた。
「まあ、それもそうだな。もうこんな事はしないよ。」
そしていきなり頭を下げ、謝った。僕らは、笑った。
そして高2のこれまた夏の暑い日に驚くべき事件が起こった。学校の改修工事をしていたところ、校庭の花壇の下から幾つもの能面と能管が出て来たのだ。そしてグラウンドからはなんと小鼓が発掘された。何方も土に塗れて使い物にならなかったので近所の寺で焼かれることとなった。新聞部はその出来事を記事にするため、同行した。
燃え盛る炎の中に次々と発掘された物が放り込まれて行く。能管、小鼓、と放り込まれたその時、大きな火柱があがり、能管と小鼓がそれぞれ小さな音を奏でた。僕はその中に美しい女性とたくましい男性の影を見た。二人は見つめ合い、僕の方を見て微笑んだ。暫くすると火は消され、灰が残った。灰は供養された後、僕や僕に賛同した新聞部の要望により校庭に埋められ、その上には二本の竹が植えられた。仲睦まじく寄り添う苗木達は彼女らの様だった。
今も尚僕らが通う高校には例の能面や能管にまつわる根も葉もない怪談話が受け継がれている。やはり夏場は怪談話に限ると、僕もせっせと根も葉もない話を作っている。夜中になると能管と小鼓の音色が聞こえる気がするのはきっと、気の所為だろう。