笛 (上) | 梟小品・思い出す事など

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小品文の集まり。

更新は極めて稀ですが、短い物語など書く積りです。
御気軽にどうぞ。

僕らが通う高校には七不思議なんてものは比べ物にならない程の摩訶不思議なものがあった。俗に言う曰く付きの代物だ。夏場の怪談話では専らこの話題で持ちきりだが、その殆どは根も葉もない作り話だということを僕は知っている。


あれは高1の蒸し暑い夏のことだった。


僕の所属する新聞部の部長がいきなり例の曰く付きの代物について特集を出すと言い出したのだ。それは先輩から後輩へと怪談話として語り継がれていた代物だったが立ち入り禁止の場所にあることから誰も見たことがなく、存在自体が怪しまれていた。従って取材ということを口実に本当に存在するのかどうか確かめようという魂胆だった。
「部長、本当に出たらどうするんですか?」
ビビりな僕の友人がおっかなびっくり尋ねた。然し部長は断固たる決意を胸に聞く耳持たず、明日を見ていた。


とうとう取材の時、夜がやって来た。部長は先生の厚い信頼によって、立ち入り禁止の場所に入る許可を得たらしい。音楽室を抜け階段を上り、体育館、美術室、理科室、トイレ、様々な曰く付きの場所を通りとうとう辿り着いた場所は屋上への扉だった。
「いいか、ここからは慎重にな。何が起こるかは分からない。いざとなったら自分の身を第一に考えろ。」
何時もよりも真剣な部長の瞳。僕は身を奮い立たせ扉を見つめた。
がちゃ、ぎい。


至って普通の屋上だ。しいて言えば星が綺麗だった。
「な、何も無いみたいですね...」
ビビりが言う。
「阿呆、これから出て来るんだよ。お前らカメラの準備は大丈夫か?」
僕は慌ててカメラのレンズカバーを外す。
緊迫した空気が張り詰めていた。生唾を飲み込む。口の中が異様に渇く。
「!」
曰く付きの代物、それは能面だった。暗闇に薄くぼんやりと光る幾つもの能面。若い女性から老婆、般若まで沢山の種類がある。然しそこに男性の面は存在しなかった。
慌ててシャッターをきる僕たち。フラッシュが彼方此方で光った。
「こんなんで良いだろう。一同、撤収!」
部長が叫んだ。互いに安堵の表情を浮かべながら能面の場所を後にしたその時、微かに笛の音が聞こえてきた。
「なぁ、これって.....」
「それ以上言うな!早く、早く撤収だ!」
然し体は固まったまま動かない。僕らは互いに顔を見合わせた。
ーーやばい
徐々に笛の音が近づいてくる。夜中の笛の音色は、想像以上に不気味だった。


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