復讐するは我にあり(日本 1979年) | Cinéma , Mon Amour.。.:*☆

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こんばんは

今宵ご紹介する映画は『復讐するは我にあり』
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先にお話からいきます

*・゜゚・*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

昭和38年の冬、雪の降りしきる中
金品強奪目的に、5人の人間を殺害したとして
全国指名手配中だった榎津巌(緒形拳さん)が
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パトカーで護送されるシーンで、
映画は幕を開けます
疾走するパトカーに揺られ
我々観てる側も一気に作中へと
引き摺り込まれ、掴みはOK


取調室で78日間に及ぶ、
逃亡期間中の経緯を尋ねる刑事に対して
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『どかーんと冷えとるじゃろね、留置場は……』
などと煙に巻く巌の表情には反省の色もなく
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そこから惜しくない  俺の一生こんなもん
の、キャッチーなコピーがついたんでしょうけれど

巌は実在の人物をモデルとしています

原作は第74回直木賞を受賞した
佐木隆三氏の同名小説で
加害者を含む関係者へ
インタビューをする事により
事件の発生から加害者逮捕、
死刑執行に至る過程を提示する手法は
ノンフィクション・ノベルと呼ばれ
代表的な作品としては
トルーマン・カポーティの『冷血』があり
佐木氏もそれに倣って今作を執筆したとのことで

敬虔なクリスチャン一家に生まれ育った彼が
どうして連続殺人犯に成り下がったのか?

明確な理由は、
述べられてはいないものの
それを表した描写として
父親(三國連太郎さん)がとったある対応が
少年だった巌には大層屈辱的であり
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おそらくはこれによって、巌の信仰心は
無くなってしまったのではないかと、推察は出来ます
そしてそれは、父親に対する侮蔑へと変わり

映画は

巌の犯す数々の犯罪の後始末に泣かされる
両親及び、改宗して巌の嫁となった加津子
倍賞美津子さん)サイドの行と
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逃亡中、巌がその身を寄せた木賃宿の女将
ハル(小川眞由美さん)との、かりそめの蜜月の行が
メインとなって進行していきます
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シリアルキラーの心情など
凡人にわかる筈もないのですが
人を騙す天賦の才を持った人間がいることは
我が経験からも、肯定出来ます

この巌という男がまさしくそれで
演じる緒形拳さんのクシャクシャの笑顔と
人の話を否定する時に使う
『にゃにゃ!!』と言う口癖には
母性本能をヤられてしまいました

巌は無慈悲な男ですが
唯一ハルにだけは情けをかけます

彼女は北村和夫さん演じるパトロンに
飼い殺しにされて生きてきました
実の母親が殺人犯であったことが
ハルから女の幸せを奪ってしまって

そこに大学教授を名乗り、
現れた巌に優しく扱われて
『この人だけは!』の想いが募り

巌が殺人犯だと分かった後も
ハルは、巌を匿い続けます

しかし結局巌は、
ハルをも手にかけてしまう

そうした方がハルも幸せなんじゃないかと
こちらが錯覚するくらい、静かな殺害シーンの後

『世話になったのう』とハルを労い
失禁してしまったハルの股間を
巌が優しく拭い取るシーンには
少しですけど、感極まりました

そして巌はハルの母親、ひさ乃(清川虹子さん)
のことも警察への密告を怖れ、殺します

過去に殺人罪で服役経験のあるひさ乃は
巌を警戒し、発した言葉が

『榎津、殺すなよ』……
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緒方さんの存在が霞んでしまうほど
清川さんの虚実の判別すらつかない凄みは
今作の白眉と言っても過言ではないと思います
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反対に、巌の母親かよ(ミヤコ蝶々さん)は
自身が病弱で何も出来ない負い目からか
息子に甘々で、いい年をした息子に
小遣いを与えるその姿の痛さは
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今村昌平監督……確信犯ですね

まぁでも蝶々さんは
いつでもどこでも蝶々さんであると
再認識をいたしましたけれども。

そしてもう一つの肝が
巌と父の、熱いのに冷たい争いです

『自分の子ながら、俺は主を好かん』と
静雄はハッキリと言い、それに対して鼻先で笑う巌
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もはや、『お尻ペンペン』レベルの
争いとしかうつりませぬが

またややこしいことに
この父子の間に存在する人物が
巌の妻、加津子なんです

加津子は舅の静雄に心酔しており
男女の関係を望んでいるふしがありありと見て取れ
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『じきに老いて、よだれを垂らすんだ』と
自嘲気味に話す静雄に

『お義父さんのよだれなら、わたしが
    舐めちょりますけん』などと宣い

えーーと、、、、
ある意味これは究極の告白とは思いますが
わたしにはよく分からないレベルの話です

蝶々さん演じるかよも、
自分の夫と、息子の嫁の只ならぬ
雰囲気には気づいていて

『わたしもまだ女だから、加津子にお父さんを
    取られたくない』と入所していた施設から
舞い戻ってくるんですよ

だから、この舅と長男の嫁の振る舞いは
巌に負けず劣らず、罪深いものですね

クリスチャンとして清廉な顔つきの裏で
息子の嫁を籠絡出来る舅を演じるのは
三國連太郎さんしかいない

今村監督のその見立ては、正しいものでした

巌が死に、かよも死に
やっと2人になれた2人を
果たして神は、祝福しますでしょうか
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清川虹子さん演じるひさ乃が巌に

『わたしはあの婆が憎くて殺したが
    あんたは殺したい奴を殺してねえんか?』
    と尋ねます

巌は、そう言えばそうだなって
ちょっと腑抜けた顔をするんですね

では巌が本当に殺したかった相手とは
誰だったのか?

おそらくそれはあの人でしょうよ
 

インパクト大のタイトル
『復讐するは我にあり』は
新約聖書に出てくる文言だそうです

この『我』とは神を表しておりますが

最後は、破門の憂き目に遭い

『人を殺したから、処罰されて当たり前』
『死ぬまでは達者でやるたい』と

覚悟はできていた巌からしてみれば

全てはどうだっていいことだったかも
しれませんな


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