お香レビュー第一弾
香りの印象、そしてそれにまつわる知識をいろいろな文献から引っ張ってきて載っけます。
とりあえずHEM(ヘム)シリーズ
名前 - COMPHOR
成分 - 楠の分泌された樹脂の結晶
オススメの焚く時間帯や目的 - いつでも、何か集中する時、和風な雰囲気作りに
説明 - これはカンファー、カンフル、樟脳(しょうのう)といって楠(クスノキ)のことで、樹齢50年を過ぎると樹液が結晶化した物が分泌され、それを蒸留して採取。
古くから日本でも防虫剤や生活の匂いとして親しまれていたようです。ですが今やおばあちゃんのタンスを開けてもナフタリンくさいでしょう。樟脳はナフタリンの様にキツくなく匂いも自然と気化していくし自然由来なので近年は好んで使う人が増えてる様です。
Hemのカンファーと樟脳そのものとでは多少香りが違うとは思いますがベースは楠の植物のスッキリした香り、焚く前は虫除けスプレーの香りですが焚くと自然の香りが広がります。香りが残りやすい狭い空間などでは和風の渋めな香りになりますので古風な雰囲気などが好きな方や場所作りにはオススメです。
ここからは本に載っていたお話を
19世紀半ばロシアの写実主義作家のイワン・アレクサンドロヴィッチ・ゴンチャローフという人が日本人について何の臭いもしないと言った。彼はジャワの中国人のお店で強烈なごま油らしい植物油とニンニクの臭いを嗅ぎ吐き気を催してしまうくらいだった。シンガポールと香港ではそれに白檀(サンダルウッド)の匂いが混ざりいっそう醜悪なものとなった。しかしその臭いはひとつの民族の否定することのできない強固な存在の主張でもあった。
だが日本に来て彼は日本人の清潔さ、匂いのなさに違和感を感じた。匂いが存在の主張であるとすれば、その匂いのない日本人はまるで幽霊のようなものではないが、人間同士の、民族同士の個性と個性のぶつかり合いという、コミュニケーションのための回路が、そこに成立しないのである。
とある。しかし正確には匂いがないのではなく嗅ぎ取れなかったのだ。
ゴンチャローフと同じ頃に訪れプロイセン(今のドイツからポーランドまたぐ王国)から来日したフリードリッヒ・ツー・オイレンブルクは「東アジア人の舌は、ヨーロッパ人の神経系統よりもずっと敏感で、塩や香辛料によって鈍感にされていないのである。だから彼らが最も美味と称するものは、気が抜けたような味のないものになる。茶でもそのことが言える。非常に芳香の強い茶、ことに有名なロシアの隊商の茶が沈香的に香りをつけていることは確実だといってよいであろう。日本ではそういうものは決して飲まれない」
そして、ここで体臭と食べる物の関係性が出てくる
菊池俊英氏の「匂いの世界」の中で
「ある地域でかたちづくられる匂いのパターンは不思議なほど統一されている。たとえば花と果物の香りを主調としたいわゆるフローラル、それにチーズの匂いで代表される種々の脂肪酸の匂いがヨーロッパの象徴であるとすれば、日本はカビくさい匂い、樟脳香、それに磯の香りとタクアンの匂いで代表される種々の含硫化合物の匂いが私たちのまわりをとりまいている」
ヨーロッパのように乾燥している、あるいは日本のように湿気が強いといった気候によって、その土地に生えている植物の匂い物質の特徴が決まり、またそこに生育する微生物が決まってくるというのである。
「雨の多いヨーロッパの夏は花や果実の香りを濃縮して田園をフローラルの香りで包んだであろう。花見つの濃縮しやすい風土はまた養蜂を成立させる。花蜜自体長い間ヨーロッパの唯一の当分の供給源であったし、イースト発酵による蜜酒の匂いもまたフローラルであった。(中略)彼らの焼くことを主体にした調理法は、アミノ酸と糖を反応させてアルヒデトの芳香を発生させた。パンと肉の匂いがそれである。そこにはもはや樟脳香、カビの匂い、磯の香りが入り込む余地はなかった」
日本は対照的にフローラルの香りを極力避ける匂い文化を形成して来たというのである。夏に湿度が高く雨の多い日本のような気候では、花の香りが濃縮できないのである。「酒の醸造で最も恐れられる落火は桜餅の香りクマリン、つまりフローラルの発生を意味している。調理法もまた生ものか煮たきが中心で、焼くときの高温によって生じるフローラルを避けたのであろう」
日本人がフローラルを嫌ったのは、日本特有のカビの匂いを温存するためだったとされる。醤油、味噌、酒などの匂いは、実はカビの発行産物なのである。また日本において古くから好まれ珍重されて来た沈香すなわち伽羅も「元をただせば沈香樹が糸状菌に侵された老樹の香り」であり、その成分の化学構造はカビの代謝産物の特徴を示しているという。そして、このカビの匂いと最もマッチする香りとして、樟脳香を生活に取り入れてきたのである。ヒノキやクスノキで家を建て、風呂桶を作り、白檀を焚き込め、墨の中に龍脳を混ぜ、クロモジで楊枝を作る、これらすべてが樟脳香を漂わせていたわけである
ちなみに菊池氏によれば、ヨーロッパ人の作った匂いの分類法においては、カビの匂いが無視され、つまりは含まれておらず、樟脳香を独立させているという。つまりヨーロッパ人は「カビの匂い」を知らなかったし、おそらくはそれを嗅ぐこともできなかったであろう。ゴンチャローフがカビの匂いを嗅ぐ鼻を持っていれば、日本人は「カビ臭い民族」になっていたであろう.しかし残念ながら、その匂いを嗅ぐことができなかったために、体臭のない不気味な民族にされてしまったのである。
と長くなってしまったが、樟脳はどうやら日本の代表する香りとして受け継がれてきたので、ぜひ一度嗅いでみてもらいたい。
参考文献:「匂いの力」青弓社
