ネオン
また、夢を見た。また何度も同じように目に蓋をして。願わずにはいられない。
あなたのネオンにして欲しい。真っ赤な、ネオン。
もう生まれてこないと知りながら、真っ暗闇にぽつぽつ浮かび上がる記憶の種を信じてる。
もう太陽も月も、その子どもたちもどこにもいないから。アンドロイドのふりして今、ここに。
今、ビル、に。真昼の月を葬りに。
聴こえるのはネオンの声。あなたの声。偽者。
そう。ただひたすら悔しくて、時間に色をつけてみたら、傷だらけのプラスチックがぺらぺらで。
そこはそんなに遠くも無く、近くも無く、無責任なカタルシス。やっぱり、あなただけのアタラクシア。
ここは90階、あなたの家の踊り場。どうして、いつもみたいに避けないの。先に歩かせないで。
下はちかちか煩わしく愛しいネオンが喚く。まさかこれは夢じゃなくて?べたべたな悪夢の匂いが。
ただ赤になりたかった。どれだけ気持ちが狭くても、どうにかして、赤になりたかったんだ。
どれだけわめいたって、悲しくたって、それでもこの赤には勝てない。情熱を屠るような眼差しで。
さして何を映すでもないその瞳に。この声すらまともに感じないその耳に。意味無くかたい左手に。
嘘しか吐き出さないその唇に。それでもその声だけがこの心をネオンへと導くから。
突然、冷たい鉄の棒に乗っけて無理矢理。
悲しいほどに、この空気いっぱいに飽和する声でもって、あなたが溶け込んでくる。呆れるほど。
下から吹き上げる風は色も無く香りも無く、ただ生温く、狭まる気持ちを燻すから。踊り場の影。
少しずつ赤に染まる身体がネオンへとダイブ。いつか見たヘブン。もっと飛ばして、とおく遠くまで。
いつだったか、あなたと、ひらり、かわした宇宙。最果てのエメラルド。涙を固める夢のお菓子。
触られるたびに蠢く何かが汚い笑い浮かべてあなたをのっとろうとしてることに気づいて。
あなたが誰のものであってもかまわないから。あなたが何者であってもかまわないから。
もう何かを失うのは嫌だよ。あなたをこれ以上薄めて、弱くして、遠くへ追いやるくらいなら。
早くここからおろして。もう繋がりたいだなんて言わないから。軽々しく持たないで。もう嫌だよ。
このまま、一緒に、ここから。
真っ赤になりたい。あなたと。
昼間の月を殺したから、そこには、もう太陽もなくて、なにも、なにもなくて、
残るのは、本物のあなただけ。扉を開く鍵はその声。もっと、呼んで。名前を。
真っ赤なネオンの底から、呼んで、もっと、名前を。その、あなただけの声で。
そう。
あなたと溶けたネオンの夢。
踊り場の情事。
絶望の合図の後の、ネオンの夢。
偽者の恋人。
もう、どこにもいかない。さよならに出会ったセフィロト。鍵はいつだってあなたの声。
下から潜り込んで、いつまでだって愛しむよ。あなたが望む限りに愛で尽くしたなら。
染み出す涙が乾かないうちに、早く、実現させて。今すぐにでも、ビルの、踊り場。
無機質な鉄の棒。露骨な赤。あなたのネオンになれたあの刹那。ダイブは、嘘の証明。
080218