不安な振動が続く下りのエレベーターもやっと止まりドアが開いた。薄暗い照明が点滅するひっそりした廊下に出て一息つくも、むっとした空気は変わらない。薄汚れた場所だが、さっきの振動を思えば十分ましか。

 

 腕の端末を見て行き先を確認し、ぼんやりした廊下を進む。いくつかの角を曲がり、緑のランプが灯る非常口まで来た。ノブに手をかけて重い扉を開けてドアをくぐると、非常階段に出る。鉄骨で出来ているそれは至る所が錆び付いている。淡く非常灯が照らすだけで、あたりは暗く遠くに点々とビルの影がぼんやりとみえ、上は真っ暗で、どれだけ高いのかわからない。遠くでは何かの轟音が響いている。

 下を見ると・・・水だ。水面が広がっている。

 

 ふと横を見ると、踊り場の外側に工事現場で見るような足場が設置されている。足場の柵に取り付けられている小さな灯りが点々とビルの壁を張っている。

 

 まったく・・・

 

 誰にも聞かれることのない溜息を吐き、端末を見る。

 踊り場の縁をまたぎ、恐る恐る足場へ降り立ち、心もとないが柵をしっかり掴む。ここもかつては高層ビルの一角だ。どれだけの高さか計り知れない。意を決して先へ進んだ。

 

 足場を踏む足音になれてきたころ、ようやくビルの端が見えてきた。足場は直角に組まれ、角を曲がりまた壁をたどると思ったら、すぐ先で足場は壁を離れ、少し離れたビル、屋上だろうか?そこへ続いている。壁が無いため更に慎重に進む。足場はしなり、屋上に着く頃にはほぼ水に浸かっていた。

 

 錆びついた金網のフェンスがわずかに残る屋上に降り立つと、水浸しの中、一面が草で覆われていた。草をかき分け、むき出しの配管と貯水タンクの横を抜けると明かりが見えた。

 

 誰かいる?

 

 こちらに背中を向けた小柄な男。帽子を被り、コートを羽織っている。おまけに白い手袋、手には・・・ステッキ。いかにも怪しげだ。

 不意に男が振り返ると、その向こうの灯りに影が見えた。

 

 子供?・・・違う。

 石を積み重ねた小さな塔だ。

 

 男を押しのけ塔に近づき、崩れるように、その場に跪く。

 

 ああ・・・

 ごめん・・・

 ごめんね・・・

 もうどこにも・・・

 

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  草が微かに揺れている。

「?・・・風?」

 男は思案するも、すぐに考えるのを止め、高さの違う2つの石の塔を見つめた。

「・・・そろそろ戻りますか・・・少々骨が折れますが」

 振り返り、暗闇にぼんやりと浮かび上がる巨大なビルを見て、誰にも聞かれることのないため息を吐いた。