「お客さん、どごまでだ?」

珍しく有人のタクシーだった。東京では、電車やバスを含め、移動手段のほとんどがAI制御の無人機になっている。ただ、場所によってはインフラが行き届かず、人の手による運転が必要になる。この辺りも、そういう区域なのだろう。

「お客さん、上の人だべ。身なりでわがっからよ」

陽気な運転手は地方出身者らしい。身振り手振りで話しかけてくる。どうやら、たまに来る物好きな観光客相手に、いつもこんな調子なのだろう。運転の荒さが少し気になったが、手つきは慣れたものだった。

いささかうるさく感じて、話は右から左へ流しながらも、たまにこうして直接人と会うことに、どこか新鮮さを覚えていた。もっとも、まったく人に会わないわけではない。会う相手のほとんどが、ネットの向こう側にいるだけだ。

「わしゃ雪国出身でな。ガキの頃は雪かきが日課じゃった。
 そのうち東京みたいになって、雪かきなんぞせんでも良くなるな、なんて話をしとったけど……いつの間にか、みんないなくなっちまったな」

運転席の背に取り付けられた小さなディスプレイでは、どこかの議員と、見たこともないアイドルが、「ようこそ東京へ!」というタイトルで、東京の魅力を大げさに語っている。

「わしら、東京さ食われてんだ」

東京に食われている。なるほど、言い得て妙だ。東京が人を食べ、食べた分だけ、さらに大きくなっていく。

窓の外には、いくつもの巨大な柱が並び、その隙間を鳥の群れが舞っていた。ここは鳥にとっても、格好の住処なのだろう。あれもまた、東京に食われたものの一部なのかもしれない。

「みんなで雪かきしたらさ、芋煮を食うんだ。うまいんだ」

「味噌味かな」

不意に口をついて出た言葉に、運転手は少し驚いた顔でこちらを見て、ニヤリと笑った。

「芋煮は、醤油だ」

こんな出会いも、たまには悪くない。