某猫型ロボットアニメに出てくるヒロインではないけれど、女の子というものは総じて入浴…長風呂が好きなものである。体の芯から温まって、疲れがお湯に溶けていく心地よさはたまらない。そこにバラの匂いの入浴剤でも投入しようものなら、気分はもうお姫様気分だ。

 今日は苦手な数学の小テストも何とかクリアしたし、マラソンもしっかり完走した。誰が何と言おうと、今日は頑張った!

 ご褒美!とばかりに秘蔵のバラの入浴剤でリフレッシュした由奈は、これまたお気に入りのフルーツジュースを片手に部屋へと戻った。窓の外に見える月もキレイだし、今夜はよく眠れそうだ。

 そんなささやかな幸せをかみしめていると、ふと携帯が鳴り出した。

 時刻はもう22時を回っている。

「こんな時間に、誰だろう?」

 手にとってみれば、ディスプレイには奏矢の文字が。

「もしもし」

『もしもし、こんばんは』

「どうしたの?バンドの練習は?」

『今終わったトコ。…ねぇ、今から会えない?』

「え、今から?」

『うん…。急に、由奈の顔が見たくなってさ。…明日まで待てなくって』

「奏矢くん…」

『あぁ、もちろん無理ならいいんだ。ごめん、急なこと言って』

「ううん、大丈夫。…私も会いたいな」

 そう答えると、奏矢の表情が綻んだ。実際には見えていないが…そうとしか思えないくらい、電話の向こうの空気が明るくなった。

『本当!?良かった!じゃあ、今からきみの家に行くから。10分くらいで行けると思う』

「うん、じゃあ待ってるね」

 電話を切って、由奈はフゥと息を吐いた。さて、急いで出かけるために支度をしなくては。髪を乾かして着替えて…10分で足りるだろうか。

 奏矢は度々、突然会いに来たり連れ出しに来たりする。その度に由奈はあわてて用意をせざるを得なくなるわけだが…近頃は、そんな強引さも楽しめるようになってきていた。

 単に慣れただけなのか惚れた弱みか。

 困った子だな、と思いながらもいそいそと支度をしてしまう辺り、やはり後者だろう。




「奏矢くん、おまたせ」

「由奈!」

 由奈が外に出ると、バイクで既に到着していた奏矢がそこで待っていた。由奈を見るなり笑顔になり、手にしていたヘルメットを投げ渡してくる。

「連れて行きたいところがあるんだ。乗って!」

「?」



 言われるままにバイクの後ろに乗る由奈を連れて十数分程走り続けたバイクは、やがて海岸へと到着した。

真夜中近い海岸には、さすがに他の人影はなく、ただ静かに波が揺れている。

「奏矢くん?こんなところに何が…」

「空を見てみなよ」

「空…?――あっ」

 思わず、声が漏れた。

 雲一つ無い、真っ暗な空に無数の星たちが瞬いている。まるで宝石を敷き詰めたかのように輝くそれは、普段自分の部屋から見上げるものとは全然違っていた。

「すごい…キレーイ!」

「だろ?さっきライブハウス出た時に空がキレイに晴れてたからさ、きっとここに来たら星が良く見えるだろうなって思って。…きみに、見せたくなったんだ」

 気に入った?

 少し自慢げに問う奏矢。由奈はもちろん、と大きくうなずいた。

「こんなに近くで、こんな星空が見れるなんて思わなかったよ!すごいね!!」

「あぁ。俺も初めて見たときは感動したよ。それで、その時に思ったんだ。次は好きな子と一緒に見に行きたいって」

「ふふ、ありがとう」

「あれ、今日は『はいはい』って言わないの?」

「たまにはね」

 ニッコリ笑って、奏矢の頬に軽くキスをする。途端、彼の顔が真っ赤に染まった。月明かりに照らし出されるその表情がおかしくて、由奈はまた笑った。

「え、え、どうしたの由奈?こんな…いや、嬉しいけどっ」

「ふふっなんでだろうね?」

 自分でもよくわからないけれど、こんな降るような星空の下でなら、もう少し素直になってみようかな、と自然に思えたのだった。






★…おかしい。なぜか由奈を書くと男らしくなってしまう…。あまり本編で、女の子らしくないからかな(笑)

そんな由奈が好きですけどね!

深い森の迷路(那智独白)


おれの人生は、本当に味気ないものだと思う。
本気を出すことは許されない、落ちこぼれることもゆるされない。
いつも2番手に。
決して慧を抜くことが無い様に。


そうすることに不満があったわけではない。
自分で決めたことだし、それが慧を守る唯一の方法だったから。
不満は無い…けれど、息苦しい。
生き苦しい。


おれの中で燻るこの思いはどこへ行くのだろう。
どこへ行けばいいのだろう。
行き場の無いこの思いは、おれの中でぐるぐるぐるぐる迷い続けている。


そんなおれの前に、あいつが現れた。
無遠慮に、お節介に世話を焼いてきて、首を突っ込んで。
酷い目に遭うよって脅してやっても聞きやしない。
こんな底なしのアホは初めてだ。


…いや、アホ自体は沢山いるけど。
この手のアホは初めてだ。


おれに構うな。
余計なことをするな。
ただ、慧が完璧でいられるように、おれの手の内で踊っていればいいんだ。
どうしてこんなに、おれをかき乱す?


どうしておれは…
それを心地よいと思い始めているんだ?



ぐるぐるぐるぐる
迷い続ける想いの行き先が、見えた気がした。




★ある意味定番。

超絶ブラコンの那智の中に芽生えた、真奈美への想い~みたいな。

でもあいつ、家族(慧)を取るか恋人(真奈美)を取るかって悩むより、他のものを犠牲にしてでも両方手に入れるタイプだよね(笑)

「はい、今日はここまでね」

 悠里がそう言ってテキストを閉じると、一気に気が抜けたのか悟郎の口から大きな息が漏れた。彼の目の前のノートには多数の落書きと共にびっしりと数式や公式が書き込まれていて、悠里はなんだか嬉しくなる。ほんの数か月前まではこうやって机に向かうどころか、街の露店での補習がやっとだったのに。

「ふぁぁ…ポペラ疲れちゃったよ~」

「ふふ、お疲れ様。今日は結構長いこと頑張ったもんね」

 机に突っ伏した悟郎の頭を撫でてやると、エヘヘと嬉しそうに微笑んだ。

「えらい?えらい?」

「偉い偉い。ほら、もう遅いし、今日は帰りなさい」

「うん!あ、センセももう帰る?」

「そうね、今日は特に溜まってる仕事もないし…。どうして?」

 悠里が問うと、悟郎の顔がますます綻び、机からピョンと飛び上がった。

「じゃあ一緒に帰ろ!」

「ええっ?」

「ねね、いいでしょ~?決まり決まりっ」

「ち、ちょっと悟郎くんっ」

 ニコニコと微笑む悟郎は、悠里の返事も聞かずにその手を取り、教室を飛び出した。




「もう、強引なんだから…」

 悟郎に引っ張られるままに着いた帰路で、悠里はハァとため息をついた。鞄を取りに戻った職員室では二階堂に呆れた目で見られるし、廊下ですれ違った九影には「走るな」と怒られた。きっと明日は最初にお説教されるだろうな、と思うと今から頭が痛い。けれど。

「あ、もうお星さまが見えてるっ。ポペラキレイだね、センセ」

 そう言ってニコニコと笑う悟郎を見れば、まぁいいかと思えた。まだまだ指導は必要かもしれないが、今はこうして、一緒に手をつないで歩けるくらいに心を許してくれたという事実の方が大事だと思えた。

『…ん?手…?』

 そういえば、教室を出たときからずっと悟郎と手をつないだままだった。暖かくて、悠里より少し大きな手は、やはり彼が「男の子」であることを表していた。

『こんなに美少女なのにね』

 見た目は女の子なのに、中身はやっぱり男の子である彼のギャップがなんだか可笑しくて、思わず笑みがこぼれる。

「ほぇ?なに笑ってるのセンセ?」

「ううん、なんでもないの。ごめんね?」

「変なセンセ!」

 そのまま二人は歩く。何気ない世間話と、時折抜き打ち補習を交えながら。悠里の自宅まで後数十メートルといった所へ来る頃には、辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていた。

「センセってば、いつもこれくらいの時間に帰ってるの?」

「今日は早い方かな。忙しい時は結構遅くまで残ってるのよ」

 深夜まで残ってるときもあるんだから!…などと、自慢にもならないことを胸を張って言った途端。

「―センセ!」

 急に悟郎が足を止めて悠里へと向き直った。

「な、なぁに?」

 その真剣な瞳におもわずたじろぐ悠里。

「センセ、明日から毎日、一緒に帰ろう?」

「な、何言ってるのよ悟郎くん。いつも今日みたいに早いわけじゃないし…」

「それなら待ってる!センセのお仕事が終わるまで、おベンキョして待ってるから…!」

 繋いだ手に力がこもる。痛いほどに。

「…こんな暗い道を一人で帰るなんてダメだよ…!ゴロちゃんが…ボクが護ってあげるから…」

 一緒に帰ろう?

「悟郎、くん…」

――ああ、男の子なんだなぁ。

 その髪も、その容姿も、声も。悠里自身、とてもかなわないほどに愛らしい少女なのに。それでも、その芯にあるものは、立派な少年の心なのだ。

 彼を指導してきて数カ月。少しずつ、彼の中の『男らしさ』に気付いてきたが、今この瞬間の彼は、今までで一番…男らしい。

 自然と高鳴る鼓動に、悠里も戸惑いを覚える。

『ダメよ…この子は、私の可愛い生徒なんだから』

 自分に言い聞かせて、顔を覗かせようとする想いに蓋をする。

「…気持ちは嬉しいけど、そんなに遅くまで校内に生徒を残すわけにはいかないわ」

「だったら、センセが早くお仕事終わらせればいいよ!そしたら一緒に帰れるよ?」

 折れることを知らない心は、簡単に無茶なことを言う。

「そうね、悟郎くんがもっと頑張って補習がいらなくなったら、早く仕事も終わって一緒に帰れるかもね?」

「えっ」

 悟郎から情けない声が漏れた。

 さすがにちょっと意地悪だっただろうか。彼の反応を見て少し心が痛んだが、返ってきた答えは意外なものだった。

「…わかった。ゴロちゃんがんばる。補習いらないくらいがんばる。だから、ボクに護らせてね?センセ」

「悟郎くん…」

 そこまで言われれば、拒む理由なんてどこにもない。

 仕方ないなぁ、と漏らした悠里の表情は、苦笑と言うにはあまりに優しい微笑みだった。

「うん…よろしくね、悟郎くん」

 さっき蓋をしたはずの想いは、簡単に溢れだしていた。







★悟郎って難しい。ていうかB6全員難しい。

もっとポペラ語使いたかったけど使い方がわからない…!!