James Setouchi

2024.11.29

 

覚書 武士道 2016.1.28  2019.12.8改 2024.3.20改

 

* 武士道、と言われるが、時代によって変遷し、その内実も多様だ。

(1)『平家』木曽義仲は情死を希望し、今井は木曽殿に公的な自害を要求する。また、今井は忠義を尽くすが、他方300人が一挙に5人に減ったのは、多くの兵は逃げたかもしれない。平安後半(『今昔』沢股五郎など)、源平合戦、南北朝、戦国~関ケ原(豊臣か徳川か)、幕末(幕府か薩長か。今治は薩長についた。愚直に幕府についたのは会津や松山)の武士の戦いを見ると、血みどろの戦いで、強い方に付く、裏切る、寝返るなどは沢山ある。「武士=忠義、立派、君子」どころではない。(菅野覚明ほか)

 

(2)武士は乱暴な収奪者だったが、北条泰時の御成敗式目(1232)、北条時頼の撫民令(1253)は武士が民衆の利益を重視する統治者として目ざめたことを示す。足利尊氏は関東ではなく京都で政権を担おうとした。足利義満は政権を担い、いわば象徴天皇制を作った。(本郷和人)

 

(3)『葉隠』は「死ぬことと見つけたり」「忍ぶ恋」を言う。打算なく遮二無二突入する美学だ。(危険思想だが、昭和の軍国主義時代にしきりに読まれた。)宮本武蔵は自分より強い相手とは戦わない。『忠臣蔵』の赤穂浪士は結果を出すために計画を立てた(和辻哲郎)。他方、山鹿素行は儒教化した君子としての士道で、統治者としてまた人間として立派であることを要求する。キリシタンの宣教師の神に忠誠を尽くす生き方が、武士の忠義に影響を与えた(古川愛哲)。

 

(4)明治武士道は、政府御用達のは軍人勅諭などに出てくる[(9)も参照]が、新渡戸稲造『Bushido』は士道を継承し「義」を重視する、精神性の高い倫理。内村鑑三『The Representative Men of Japan』と相まって、日本人=高い精神性を持った立派な人々、というイメージが世界に流布しただろう。

 

(5)乃木殉死、集団自決、一億玉砕の源流は何か? (春秋の斉の召忽は殉死したが管仲は殉死せず敵だった桓公を補佐した。漱石は乃木殉死賛美に対し違和感を表明して『こころ』を書いた。)

 

(6)カミカゼと自爆テロはどう同じでどう違うか? フランス語では自爆テロのことを「kamikaze」と呼ぶ!

 

(7)グローバル資本主義の波に対抗して藤原正彦(数学者)は『国家の品格』の中で新渡戸的な武士道を提唱し、一時ブームになった。だが、果たしてどうか?

 

(8)学校教育において武道必修化したが、内田樹(たつる)=合気道の達人でフランス現代思想の研究者=は怒っている。明治以降の「武道」は明治以前の武術は断絶があり、武術の神髄とも言える魂の修行の部分をそぎ落としている、と。

 

(9)大日本武徳会は、日清戦争のころ組織され、大正時代に「武術」を「武道」と改称し、大日本帝国の軍国主義の推進母体となった。(つまり「武道は日本の伝統」と言うのは厳密には誤りで、明治以降の帝国主義日本の産物だ。そこで(魂の修行の部分をそぎ落とし)身体を鍛え国家のために忠誠を尽くして死ねる国民を育てようとしたのだ。)(軍人が植芝盛平に合気道を教えてくれと依頼しに来たとき、植芝盛平は「それは日本人みなを鬼にするということじゃ」と怒って拒否した(内田樹)。)だからGHQが禁止した。(少林寺拳法は踊る宗教として認可された。戦後国家神道を解体し信教の自由を推進していたから。)戦後しばらくして復活し、学校教育で必修化したが?

 

(9)アメリカンスポーツであるベースボールも、一時は野球撲滅キャンペーン(新渡戸も嘉納治五郎も)があったが、気が付くと心身を練磨し敢闘精神を養いお国のために役立てる武士道野球道に変容した。戦中はそれも禁止したが、戦後早くアメリカンスポーツとして復活したのはなぜか。戦後しばらくするとまた武士道野球道に戻るのはなぜか。現状はどうか。「サムライジャパン」などと言いたがるのはどういうわけか。

 

(10)山岡鉄舟(剣禅一如)に学んだ小倉鉄樹(小倉遊亀の夫。小倉遊亀は日本画家)の開いた神道禊(みそぎ)教と呼吸法と禅宗と武術とを足したような道場で学んだ一人の学生(東大工学部、いや工部大学校か)が東大ボート部にその思想を持ち込んだ。エリート(帝大、旧制高校、旧制中学)のスポーツとしてボート競技(もとイギリスのエリートのスポーツ)が広がり、「これこの漕艇は生死脱得の修行にして…喪身失命を避けず…いたづらに右顧左眄せず…一漕一漕吐血の思いをして漕破すべし」といった文言と思想が全国に広がった。これはまことにすばらしいと考えるか、危険思想と考えるか?

 

読んでみよう→菅野覚明『武士道の逆襲』、本郷和人『なぜ武士は生まれたのか』、新渡戸稲造『武士道』、内村鑑三『代表的日本人』、小池嘉明『葉隠』、相良亨『武士道』『武士の思想』、『今昔物語集』『平家物語』『葉隠』『軍人勅諭』『国体の本義』『終戦の詔勅』