James Setouchi
2024.11.10
イスラム世界・イスラム教に関する参考書 2016、8作成(既にやや古い)
ここで紹介した本がベストの選択というわけではない。他にも多数の本が出ている。私はイスラーム研究の専門家ではないので、見落としが沢山あるだろう。あとは自分で研究してみてください。(なお、著者紹介は、その本のカバーなどの著者紹介に従った。)
(1)やはり『コーラン』は必須だろう。
『コーラン』ただし本来はアラビア語。ここで紹介するのは日本語訳で、中公バックス 世界の名著17、1979年発行(藤本勝次責任編集)。
(2)ISが出てきて情勢は刻々変化している。ここで紹介した本はIS出現で緊急に出た本。但し2015年1月の本で止まっている。2015年1月以降も刻々に情勢は変化している。最新の情勢を知るには最新の本がよい。IS出現の経緯などはこれらで十分把握できる。また、最新の情勢については、複数の視点の本を読み合わせることが必須だろう。
『イスラム国の正体』国枝昌樹2015,1朝日新書 著者はもと外務省勤務、シリア全権特命大使。
『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』内藤正典2015,1集英社新書 著者は同志社大学教授(イスラム地域研究)。
『イスラム国の野望』高橋和夫2015,1幻冬舎新書 著者は放送大学教授(国際関係論)
(3)IS出現以前だがアフガニスタン・イラク戦争(アフガニスタン戦争は2001年10月~、イラク戦争は2003年~)以降の本。アメリカを中心とする有志連合軍の行動の是非をめぐる議論もあり、もっとイスラム圏を理解しよう、日本は中近東では尊敬されているからアメリカと同一歩調ではいけない、などの議論もあった。
『マララ』マララ・ユスフザイ、パトリシア・マコーミック2014,10 岩崎書店 パキスタンのタリバンが出てくる。パキスタンのタリバンとアフガニスタンのタリバンは別の組織だとある本に書いてあった。
『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』宮田律(おさむ)2013.9新潮新書 著者はイスラム研究センター理事長(現代イスラム政治研究、イラン政治史)
『イラン人は面白すぎる!』エマミ・シュン・サラミ2012,4光文社新書 著者はイラン生まれで日本で生活するタレント。
『イスラムー癒しの知恵』内藤正典2011,1集英社新書 著者は同志社大学教授(イスラム地域研究)
『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』中村哲・澤地久枝2010,2岩波書店 アフガニスタンのタリバンが出てくる。中村哲は医師。
『イスラムに負けた米国』宮田律2007,7朝日新書 著者はこのとき静岡県立大学国際関係学部准教授(イスラム政治史、国際政治)
『イラン 世界の火薬庫』宮田律2007,5光文社新書 著者はこのとき静岡県立大学国際関係学部准教授(イスラム政治史、国際政治)
『シーア派 台頭するイスラム少数派』桜井啓子2006,10中公新書 著者は早稲田大国際教養学部教授。専門はイスラーム地域研究、特にイラン。
『村田エフェンディ滞土録』梨木香歩2004角川書店(今は角川文庫で買える):小説。第一次大戦ころのトルコが舞台で、様々な民族・宗教の人が一緒に暮らすさまを描く。
(4)アフガン・イラク戦争以前だが、2001年の9.11テロ以降の本。9.11テロは大きな衝撃だった。アルカーイダって何? イスラム原理主義って何? など緊急に多くの本が出版された。便乗本も結構ある。
『メッカー聖地の素顔』野町和嘉2002,9岩波新書 著者は写真家。北アフリカ、メッカ、チベットなどの著書・写真集がある。この本はメッカ巡礼の写真集。ビジュアルにメッカ巡礼のイメージが分かる。この本は9.11テロとは無関係に出た本の印象がある。
『ビンラディンの論理』中田考2002,1小学館文庫 著者はこのとき山口大学教育学部助教授、著書『イスラームのロジック』ほか。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員をしたことも。(のち同志社大学教授となる。)
『よくわかる イスラム原理主義のしくみ』飯塚正人2001,10中経出版 著者はこのとき東京外大アジアアフリカ言語文化研究所助教授。専門はイスラーム研究。
『日本人が知らなかったイスラム教』佐々木良昭2001,10(もとは1987年)青春出版社 著者はこのとき拓殖大学海外研究所教授。アラブの政府機関や民間企業で働いたことがある。
『不思議の国サウジアラビアーパラドクス・パラダイス』竹下節子2001,7文春新書 著者はパリ在住で著述業。著書『ローマ法王』『さよならノストラダムス』『カルトか宗教か』等。
『現代イスラムの潮流』宮田律(おさむ)2001,6新潮新書 著者はこのとき静岡県立大学国際関係学部助教授(イスラム地域研究、国際関係論)
『イスラムの誘惑』菊間潤吾監修2001,4新潮社コンプリート・ガイドブック シリア・レバノン・ヨルダン・サウジ・トルコ・ウズベキスタン・オマーンなどイスラム圏への旅行・観光ガイドブック。監修者の菊間氏は旅行プランナー。(この本が出た時はアフガン・イラク戦争もまだ行っていないし、ISも登場していない。9.11テロ後の緊急出版でもない。シリアあたりの今は破壊された遺跡の写真もある。)
(5)2001年の9.11テロ以前の本。
実は1973年のオイル・ショック以前は日本ではイスラム研究は弱かった。欧米の研究を翻訳するだけで、アラビア語・トルコ語・ペルシア語から直接情報を取ってこられる人が少なかった。1973年以降あわてて東大などにイスラム学科を作って学生・研究者を養成した。1979年のイランのホメイニ革命も衝撃だった。イラン・イラク戦争(1980~1988)は長々と続きそこでは悲惨なことも多数あったが、日本は親米的で、アメリカがイラクのサダム・フセイン政権を応援していたからか、当時イラクの行った化学兵器による攻撃(自国民であるクルド人にも使用した)などは日本ではあまり知られていなかった。これらのことは上記(2)の本には書いてある。1990年にイラクがクェートに侵攻し1991年にアメリカを中心とする多国籍軍がイラクを攻撃した(湾岸戦争)。90年代は東西冷戦後=アメリカが唯一の超大国、と言われたが、2001年の9.11テロが起こった。
『イスラム教の本 唯一神アッラーの最終啓示』1995,12学研Books Esoteria14 これはイスラム教全般についての概説書。使いやすいのでおすすめ。
『イスラームとは何か その宗教・社会・文化』小杉泰1994,7講談社現代新書 著者はこのとき国際大学助教授(イスラーム学、中東地域研究)。北海道生まれで、エジプト国立アズハル大学イスラーム学部卒業。
『聖戦の教典 コーランの秘密 中東の明日を左右するアラブの大義とは』吉村作治1991,3 著者はこのとき早稲田大助教授。エジプトのピラミッド発掘で有名。
『マホメット』アンヌ=マリ・デルカンブル1990,12創元社「知の再発見」双書⑤ 著者はフランス人。レバノンの大学で教えたこともある人。この本はムハンマドの伝記。「マホメット」という表記から、フランスなど欧米の言語からの翻訳だとわかる。アラビア語から直接翻訳する人は「ムハンマド」と言う。だが、当時はそういう本しかなかった。
*上に書けなかったが、中村哲の本は全て値打ちがある。(2024.11.10)
*参考までに、以下の三つの戦争はそれぞれ法的性格が違う。
湾岸戦争:1990年にイラクがクェートに侵攻し1991年にアメリカ(父ブッシュ)を中心とする多国籍軍がイラクを攻撃した(湾岸戦争)。国連安保理の武力行使容認決議による。PKOではない。
アフガニスタン戦争:2001年に9.11テロがありその年にアメリカ(子ブッシュ)を中心とする有志連合軍がアフガニスタンのタリバンを攻撃した。集団的自衛権の発動とされた(集団的自衛権の発動とは見なせないとする意見もある)。国連の集団安全保障措置としての軍事行動ではない。もちろんPKOではない。
イラク戦争:2003年にアメリカ(子ブッシュ)を中心とする有志連合軍がイラクのサダム・フセイン政権を攻撃した。武力行使について国連の安保理による明示的な容認決議をアメリカは出したかったが、出なかった。これまで累積した安保理決議により容認されるとする立場もあるが、容認されないとする立場もある。一種の先制攻撃であり、アフガニスタン戦争よりもさらに問題が多いとされる。もちろんPKOではない。