James Setouchi
2024.9.11
経済・社会系
古賀茂明『分断と凋落の日本』日刊現代 2023年4月
1 著者:古賀 茂明
1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。産業再生機構執行役員、経済産業政策課長、中小企業庁経営支援部長などを歴任。2008年、国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任し、急進的な改革を次々と提議。09年末に経済産業省大臣官房付とされるも、11年4月には日本ではじめて東京電力の破綻処理策を提起した。その後、退職勧奨を受け同年9月に辞職。著書・メルマガを通じ活発に提言を続けている。『官邸の暴走』(KADOKAWA)、『日本を壊した霞が関の弱い人たち』(集英社)など著書の累計発行部数は100万部を超える。自身が企画・プロデュースし、本書が原案となったドキュメンタリー映画『妖怪の孫』が2023年3月に公開され、大きな話題を呼んだ。(本書の著者紹介による)
2 目次:
はじめに いまこそ「新しい改革」を提言する
第1章 安倍首相が築いた「戦争できる国」が本当に戦争を始める日
第2章 10年越しの原発ルネッサンス
第3章 出口なきアベノミクスが日本を滅ぼす
第4章 凋落の原因は経産省と安倍政権にある
第5章 メディア・官僚・司法も安倍政権の”共犯”だった
第6章 いまこそ再び「改革はするが、戦争はしない」宣言!
3 コメント
2023年4月に出た本。安倍・菅・岸田政権の失策を批判し日本の危機的現状を訴え次世代への期待を語る。安倍・菅・岸田政権の政策を支持する人からは反論もあるかも知れないが、著者は経産省のエリート官僚だった人なので、政策全般や官僚の内部事情に詳しく、読み応えがある。一部のみ紹介する。
第1章
ISに後藤健二・湯川遥菜さんが拘束されたとき、安倍首相は中東訪問を強行し「ISと戦う周辺諸国に2億ドルの支援をする」と宣言した。その2日後ISから「2億ドル要求」の動画が出た。しかも人質解放に実績のないヨルダンを頼った。官邸は人質を本気で救う気がなかったのではないか。後藤さんはシリア空爆で悲惨な状況に陥る女性や子どもの写真を多く撮っており、それを持ち帰られると安保法案の議論に影響を与える、と安倍氏が思ったとしても不思議はない。
TVのワイドショーで、安倍氏がこの件を知っていて中東を訪問したとしたら問題だ、と発言した有識者は、翌日以降TVから姿を消した。(54~58頁)
→(感想)そうだとすると、これは衝撃だ!!
第3章
台湾のTSMCは半導体のトップ企業だが、実はそれが熊本で作る(巨額のお金を出し経産省が誘致)のは12~28ナノレベルの半導体だ。今の日本には3ナノのような最先端の半導体を使える産業がない。トヨタは20ナノレベルの半導体を使う。アメリカのテスラは4ナノの半導体を使う。トヨタはテスラに追いつけない。(142~144頁)日本には個別分野で見ると世界トップの技術とシェアを持つ企業がまだかなりある。この分野は半導体製造のボトルネックとなり得る。ここを育てるとよい。(146~147頁)
→(感想)なるほど・・・
第4章
経産省(もと通産省)は存在意義を示すために次々と新しい政策を打ち出すが、中身がない。2013年のクールジャパン、2017年のプレミアムフライデー、おもてなし規格認証などなど、いずれも「瞬間芸」の域を出ず、税金の無駄づかいだ。国民は、電通・経産省・安倍政権という3チャラトリオに国を委ねてしまった。(194~205頁)。企業第一でなく労働者を第一に考えたリスキリング政策を取るのであれば、大学の学費をタダにし、一度社会に出た人でも学び直しで大学に行けるようにする。失業給付の金額を上げて生活に困らないようにする。失業給付期間も長くすべきだ。(221~222頁)このように著者は言う。
→(感想)同感だ。官僚にもこのように国民のことを考えている人がちゃんといる(いた)のだ。
第6章
「日本の劣化に歯止めをかける三つのステップ」として
(1)「現実を直視する」(「日本は凄い!」式の言説に惑わされない)、
(2)「過ちを認める(アベノミクスは失敗だった、と認める)、
(3)「過ちを分析して責任を取る」、
とする。
さらに「古い改革」(経済効率のみを重視する改革)ではなく「新しい改革(効率よりも公正を重視する改革)」を行うべきだ、それは
「人にやさしい(企業ではなく、北欧のように、人にやさしい。ジェンダーギャップを解消する)」
「自然にやさしい(例えば核のごみやプラスティックゴミ対策)」
「不公正に厳しい(政治献金不正を糺し、金持ち優遇税制を改革する。消費者庁・公正取引委員会・労働基準監督局・児童養護施設・児童相談所などを強化など)」政策で、
特に最優先は少子化対策だ。
ついに移民を受け入れるべき時が来たのか。住居支援も児童手当も両方やればいいなどなど。
今まで男中心の社会で活躍できなかった女性、既存の価値観・成功体験に囚われないZ世代、ミレニアム世代に主役になってもらう。
→(感想)このように古賀氏は提言する。皆さんはどう考えますか?R5.8.7
付言:私見だが、原発再稼働を言い始めた人がいるが、核のごみを最終的にどうするのか? どうもできないことをなぜやるのか? 電力が足りない? 電力をくうリニアは(外国に売るのはいいとしても)狭い日本には要らない。
金持ち優遇税制は早期に是正したい。1962年には富裕層に対する最高所得税率は75%だった。池田勇人(岸田さんの尊敬する宏池会トップ)がそれをした。80年代から(中曽根内閣の頃)金持ち優遇にシフトし(累進課税の最高所得税率を引き下げ)、貧富の差が拡大した。今も金持ち優遇が続いている。中曽根さんは男前だしレーガンと仲良くして「ロン、ヤス」で人気があったが、実際には貧富の差を拡大するスターターとなっていたのだ。そろそろ元に戻すべきでは? どうですか?
R6.9.11