James Setouchi
2024.9.8
法・政治 東京新聞社会部編『兵器を買わされる日本』文春新書 2019年12月
1 東京新聞社会部(本書の紹介文から)
本書の基になった東京新聞の調査報道キャンペーン「税を追う」は2018年10月29日から掲載が始まった。税の流れを追い、無駄づかいや政財官界の利権を明らかにするが目的で、防衛省の兵器調達予算や沖縄・辺野古の米軍新基地建設工事、東京五輪予算、医療費・薬剤費などのテーマを掘り下げ、2019年11月までに約130本のニュース・連載記事を掲載し継続している。一連の記事は、2019年の日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞を受賞した。本書は第2次安倍政権で増大する防衛費に絞って追加取材し、自動車関税の引き上げを切り札に日本に兵器購入を迫るトランプ大統領の戦略や、官邸主導で米国製兵器の輸入を拡大させ、再び軍拡の道を進み始めた日本の防衛戦略の内実に迫った。(以下略)
2 「あとがきにかえて~税を追い利権を書く」(東京新聞(中日新聞)社会部長 杉谷剛)からいくつか
「分断や格差が広がる社会で、税はもっと大勢の人の暮らしをよくするために使われるべきだ。富を再分配して社会の格差を縮めるためにも私たちが税を追いかける理由はそこにある。」(253頁)
「トランプ大統領のディールに引き込まれ、謝金を膨らませて兵器をどんどん買い増した結果、兵器ローンの返済や何兆円という維持整備費に苦しめられるのは、いまの私たちや次世代の人々にほかならない。」(250頁)
「税の流れを追うと、いろんなことが見えてきた。兵器ローンの返済が膨らみ、予算が足らなくて補正予算でこっそり補填している▽米国製兵器をいったん買うと、廃棄処分するまでの維持整備費が何兆円とかかる▽F35戦闘機に日本製の部品を搭載するため、日本企業の設備投資に1800億円の税金を投じたのに、結局、絵に描いた餅で終わった▽国家安全保障局(NSS)が米国からの兵器調達を主導し、攻撃型兵器の調達が急速に進んでいる―などだ。」(248頁)
「トランプ大統領と官邸主導。…日米軍事一体化の進展はトランプ大統領の登場以前から始まった。2013年の秘密保護法の成立と…2015年の安全保障体制の成立が大きな歴史上の転換点となった。/その後、トランプ政権が誕生。日本も官邸への権力集中がさらに進んだ。二つのキーワードが揃ったとき、米国製兵器の輸入が拡大した。」(249頁)
3 少し例を挙げてみよう。
(1)例1 護衛艦「かが」は建造費1155億円(8頁)。同型の「かが」「いずも」を改修し「多用途運用護衛艦」(38頁)とし短距離離陸・垂直着陸機(STOVL機)を搭載する(つまり空母化する)(39頁)。載せるのはステルス戦闘機F35b(37頁)10機ほど(42頁)で1機120億円以上はするだろう(12頁)。(F35aとF35bを計105機で合計1兆2600億円の買い物をFMS(Foreign Military Sales)を通じて買う。FMSは米側が価格や納期を決め、米側の有利な取引だ(12頁)。)F35bは巡航ミサイルJSMを搭載する(45~46頁)。
(2)例2 イージス・アショア(陸上からのミサイル防衛の兵器114頁)は2基で2400億円(119頁)。加えて30年間の維持・運用費は2基で1954億円。計4400億円(下注1)。SM3ブロックミサイルは一発30億円以上で、1基あたり24発で720億円。2基で1440億円(120頁)。結局2基で6000億円近い買い物だ。(しかも垂直発射装置103億円、試射の費用一回100億円以上などは別。)(120頁)
こうした買い物が矢継ぎ早に決まっていく。これらは血税から捻出される。また自衛隊の通常の予算をも圧迫している。(83頁、90頁、96頁、130頁など)。
(3)防衛予算は、2019年度12月の予算が5兆2600億円で、2018年度補正予算に回した兵器ローン(借金残高5.3兆円!18頁)返済の一部が3200億円、合計5兆5800億円という大きな額になった。(196頁)
安保や自衛隊に賛成か反対かの立場もあろうが、賛成/反対するにせよ、あまりにも高い買い物をさせられている、これは本当に国民のためになっているのか? という疑問はわいてくる。皆さんはどう考えますか?
(下注1)地上イージス導入を中止したがイージス艦2隻にすると4800~5000億円以上(産経新聞R2.12.19土5面)。
(政治学、法学)
丸山真男『日本の思想』、石田雄『平和の政治学』、高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』、橋場弦『民主主義の源流 古代アテネの実験』、湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』、小林節『白熱講義! 日本国憲法改正』、木村草太『憲法の創造力』、松元雅和『平和主義とは何か』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、林信吾『反戦軍事学』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、石破茂『国防』、兵頭二十八『東京と神戸に核ミサイルが落ちたとき所沢と大阪はどうなる』、中島武志・西部邁『パール判決を問い直す』、田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』、読売新聞社会部編『ドキュメント検察官―揺れ動く「正義」』、原田國男『裁判の非情と人情』、秋山健三『裁判官はなぜ誤るのか』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』『タックス・イーター』、大下英治『小説東大法学部』(小説)、イェーリング『権利のための闘争』、大岡昇平『事件』(小説)、川人博『東大は誰のために』、川人博(監修)『こんなふうに生きているー東大生が出会った人々』、加藤節『南原繁』、三浦瑠璃『「トランプ時代」の新世界秩序』、池上彰『世界を動かす巨人たち<政治家編>』『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、山田正彦『売り渡される食の安全』などなど。 (R2.3.21)