James Setouchi
2024.9.8
法・政治
堤未果『堤未果のショック・ドクトリン』幻冬舎新書 R5.5
1 著者 堤未果:国際ジャーナリスト。東京生れ。NY州立大国際関係論学科卒。NY市立大で修士号。国連、米国野村證券などを経て現職。著書『ルポ・貧困大国アメリカ』『ルポ貧困大国アメリカⅡ』『(株)貧困大国アメリカ』『政府は必ず嘘をつく』『政府はもう嘘はつけない』『日本が売られる』『デジタル・ファシズム』『ショック・ドクトリン』など。WEB番組「月刊アンダーワールド」キャスター。(本書カバーの著者紹介等から)
2 『堤未果のショック・ドクトリン』
『ショック・ドクトリン』とは、ナオミ・クラインという人の書いた本の名前。「テロや戦争、クーデターに自然災害、・・・など、ショッキングな事件が起きたとき、国民がパニックで思考停止している隙に、通常なら炎上するような新自由主義政策(規制緩和、民営化、社会保障切り捨ての三本柱)を猛スピードでねじ込んで、国や国民の大事な資産を合法的に略奪し、政府とお友達企業群が大儲けする手法」(37頁)を「ショック・ドクトリン」と言う。例えば、チリ軍事クーデター(1971年)、気候変動(1988年~)、旧ソ連崩壊(1991年)、アメリカ同時多発テロ(2001年)、スマトラ沖地震(2004年)、ハリケーン・カトリーナ(2005年)、東日本大震災(2011年)、新型コロナパンデミック(2020年~)などで見られた(57頁)。
著者は言う、本書は「陰謀を暴く」「特定の人や企業を攻撃する」「資本主義や自由化、規制緩和を否定する」ためのものではなく、「昔よりずっとスピードが速くなったこの世界で、何が起こっているのかを多角的に摑み、全体像を見るスキルを身につけるヒントを差し出すための本です。」(49頁)
少しだけ内容に触れてみると・・・
・9.11テロのあと、愛国者法がスピード可決された。「テロリストからアメリカの治安と安全を守るため、通話記録の収拾をはじめ、当局が国内の隅々まで監視する権限を持つ」ものだ。
・「古今東西、為政者は、都合の悪い情報を遮断し、多様な言論を統制し、おかしいことをおかしいと言える自由を奪おうと躍起になってき」た。(34頁)
・シカゴ大学の新自由主義者ミルトン・フリードマンは、個人ではなく国家をターゲットにショック・ドクトリンを行うことを思いついた。(38頁)自由に好きなだけ儲けたいと願う銀行家と多国籍企業、投資家たちはそのやり方を採用した。(39頁)最初の実験例はチリだった。(40~43頁)これが南米、アフリカ、中東、イギリス、アメリカ、タイ、韓国、インドネシア、ロシア、中国にまで導入された。日本もそうだ。(44頁)
・マイナンバー・カードは、コロナ禍が大チャンスとなった。マイナンバー・カードについては賛否両論あり、国民は不安を抱いているが、政府は健康保険証廃止を脅しとして使い、一挙にマイナンバー・カード普及を進めた。その狙いは、①全国民の金融資産(預金、有価証券、電子マネーなど全て)をリアルタイムで完全に把握し、②国民の思想と行動を監視すること、であるに違いない。(第1章)
・コロナショックの時は、ワクチンに対する疑問の声を投げかける医師たちもいるのだが、急速にワクチン導入が決まった。アルゼンチンでは、ファイザーが支払い担保として軍事基地を要求しているのに激怒、ファイザーとの契約を破棄。ブラジルも同様。日本では回転ドア人事(利益を上げる企業と監視する役所の人事が交流し、「利益相反」を起こす)があり、十分な検討もなくワクチンを導入した。(第2章)
・3.11大震災・原発事故のあと、太陽光発電への期待が高まったが、太陽光パネル市場の8割は環境規制が世界で最も緩い中国製品が占めている。パネルが薄く壊れやすい。処分場が足りない。メガソーラー事業は森林を破壊し土砂崩れを起こす。再エネでない通常の電気代が高くなる。光熱費や税金が上がり住みづらくなると不動産価値が下がり、外資が買いたたく。一部の人がもうけて国民が苦しむ仕組みを作ってしまった。ここでも回転ドア人事があった。山梨県は土砂崩れリスクのある場所では建設禁止に。(第3章)
→(感想)詳細は各自読みご検討頂きたい。マイナ・カード、ワクチン、太陽光発電のいずれも、メリットもあるが、やりかたによってはデメリットもやる。大事な税金を誰かに持って行かれないためにも、国民が賢くなり情報を偏らず公正に入手し民主主義を守る必要があると感じた。 (R5.8.15)