James Setouch
2024.9.7
池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』集英社新書2017年7月
1 著者 池上彰1950年~ 長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授、東京工業大学特命教授。73年慶應義塾大学卒業後、NHK入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年よりフリーに。著書『伝える力』『そうだったのか!現代史』『知らないと恥をかく世界の大問題』『おとなの教養』『世界を動かす巨人たち<政治家編>』ほか多数。(集英社新書の著者紹介から)
2 扱っている人物 以下の通り。
第1章 ジャック・マー:1964~。アリババを作った人。
第2章 ルパート・マードック:1931~。アメリカのメディア王。
第3章 ウォーレン・バフェット:1930~。「オマハの賢人」と呼ばれる大富豪。
第4章 ビル・ゲイツ:1955~。マイクロソフトを作った人。
第5章 ジェフ・ベゾス:1964~。アマゾンを作った人。
第6章 ドナルド・トランプ:1946~。会社経営を経てアメリカ大統領に。
第7章 マーク・ザッカーバーグ:1984~。フェイスブックを作った人。
第8章 グーグルを作った二人:ラリー・ペイジとセルゲイ・ミハイロビッチ・ブリン。両者1973~
第9章 コーク兄弟:大富豪。リバタリアンでティーパーティー運動の推進者。チャールズ1935~、デビッド1940~
3 コメント 上記の人々を選んだのはなぜだろうか。
生まれた年代別に並べ直すと、1930年生まれのバフェットが最年長。メディア王マードックも同世代。コーク兄弟がこれに続き、トランプが1946年生まれだから戦後すぐ。50年代ビル・ゲイツ、60年代ジャックー・マーとベゾス。70年代グーグルの二人。80年代ザッカーバーグ。ビル・ゲイツから後の人はコンピュータ(IT)関係の人ばかりだ。実際に世界を(私たちの生活を)大きく変えた人々を取り上げているのだろう。
出身地は、ほぼ全員アメリカ。マーが中国、マードックがオーストラリア、セルゲイ・ブリンはソ連だが、後者二人はアメリカに移動。ロシアや中近東にも大富豪がいそうだが、この本では扱っていない。
ロックフェラーやカーネギーは有名だが、この本では扱っていない。コーク兄弟やメディア王マードックは知る人は知るが、知らない人もいる。しかし現実にアメリカを(世界を)動かしてしまっている。アメリカの世論を動かし、アフガニスタンやイラクの戦争を始め、オバマ政権を批判し、トランプ政権に影響を与えている。
何も持っていないところから立ち上がった人もいるが、多くは親が相当程度の資産家、会社経営者のようだ。ビッグになっていく過程で、ややインチキめいたことを行いライバル社と訴訟になったりしているエピソードも紹介される。
私にとって印象的だったのはバフェットさんだ。有名人は呼び捨てにしてもいいのだろうが、彼だけは呼び捨てにせずバフェットさんと敬称を付けて呼びたい。世界不況の中で生まれ貧しい生活の中で努力した。キング牧師の演説を聞き感動、ユダヤ人差別にも立ち向かう。道徳心の強い父親の影響もあってか、大富豪になっても贅沢な暮らしをせず、ネブラスカ州オマハの質素な住宅から出ようとしない(p.80,83)。アメリカ社会を公正なものにするために、大富豪こそ高額の納税をきちんとするべきだ、そうすれば「2億9000万人のアメリカ国民とそのほかの企業は、所得税、社会保障費、相続税、固定資産税を1セントたりとも連邦政府に払う必要がなくなるのです」「ほかのアメリカ企業も私たちに倣って納める額を増やしてほしいと思っています」(p.100) と主張する。同じアメリカで生まれてビジネスで成功しても、道徳的な人もいれば、そうでない人もいるようだ。
(経済学・経営学など)
榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、増田博也『地方消滅』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、川上徹也『「コト消費」の嘘』、スィンハ『インドと日本は最強コンビ』などなど。