James Setouchi

2024.9.8

法・政治

 

   堤 未果『デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消えるNHK出版新書2021年8月

 

1 著者 堤 未果:東京生まれ。国際ジャーナリスト。著書『ルポ・貧困大国アメリカ』『沈みゆく大国アメリカ』『政府は必ず嘘をつく』『日本が売られる』など。

 

2 『デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える』:目次は次の通り。プロローグ/第Ⅰ部 政府が狙われる 1最高権力と利権の館「デジタル庁」 2「スーパーシティ」の主権は誰に? 3デジタル政府医必要なたった一つのこと/第Ⅱ部 マネーが狙われる 4本当は怖いスマホ決済 5熾烈なデジタルマネー戦争 6お金の主権を手放すな/第Ⅲ部 教育が狙われる 7グーグルが教室に来る!? 8オンライン教育というドル箱 9教科書のない学校/エピローグ

 

 全体として、世界に押し寄せるデジタル化の波の正体が、一部の富裕層の、国民(世界の人々)に対する監視と収奪であることを看破し警告した本、と言えよう。読んでいて恐ろしくなることばかりだ。

 

 とりあえず第Ⅰ部のみ紹介する。日本ではデジタル庁が発足した。これは今世紀最大の巨大権力と利権の館だ(32頁)。政府サービスを請け負うのは外国資本のアマゾンだ(32頁)。そのデータ設備は、日米デジタル貿易協定により、日本国内には置けない(35頁)。これは、デジタルを通して私たち日本人の資産をアメリカのグローバル企業に際限なく売り渡す協定だ(36頁)。またクラウド法により、アメリカ政府は米国内に本拠地を持つ企業に対し、データを令状なしで開示請求できる(37頁)。中国も、「いかなる組織も人民も政府が要求すれば全てのデータを提出しなければならない」とする国家措置法を持つ(37頁)。このリスクの多いデジタル化を、日本政府はなぜ拙速に進めるのか?(38頁)

 

 スーパーシティ構想(町をまるごとデジタル化する)を推進したのはK(原文には実名あり。以下同じ)大臣とTもと大臣だ(40~41頁)。スーパーシティ構想は、グレーゾーンが多い(41~43頁)。利便性とスピードを重視しすぎた先にあるのは、「公共」の概念が消滅する世界だ(48頁)。ジョージア州サンディ・スプリングス市は、富裕層の富裕層による富裕層のためだけの自治体だ。例えば事故で障がい者になり働けなくなって収入がなくなるとそこには住めなくなる。そこには明日は我が身と他者に心を寄せる想像力と手を差し伸べ合う「公共」の概念が抜け落ちている(48~51頁)。「民営化で無駄をなくせば料金は下がりサービスの質は上がる」とKもと首相やTもと大臣は言ったが、台風被害で復旧もボランティア頼み、児童福祉士の仕事が多すぎて虐待死を防げない、保健所が半分になり公立病院も補助金を削減されたのでコロナ禍の対応が厳しい(54~55頁)。ルイジアナ州で福祉システムをデジタル化すると、デジタル化で給付のハードルが上がり、申請自体を諦める人が増えた(58~61頁)。公共福祉施設の民営化と弱者切り捨てが狙いだった(61頁)。州民が批判し制度を改めようとしたが、ベテランのケースワーカーがすでにいなくなっていた(62~63頁)。ペンシルベニア州では「信用スコア制度」で国民の個人データを管理する(64頁)。フィリピンでは民間電力会社を参入させたところ、中国企業の資本が入っており、サーバー設備も南京に移され、中国政府の指示でフィリピンの電力スイッチをオフに出来るという事態となった(67~68頁)。RCEPでも、中国企業がデジタル事業に参入するときサーバーが北京に置かれても文句が言えない形になってしまった。中国企業は自国政府からの情報開示要求を拒めない(72~73頁)。アメリカや中国は地政学的戦略としてデジタル包囲網を進めている(74頁)。エストニアは2007年にロシア国内からのサイバー攻撃の被害を受け、今はデジタルセキュリティを国の最優先課題に挙げている(76頁)。トロントはグーグル系列のIT企業がデジタル都市建設を試みたが、利便性と引き換えに自治や主権を差し出すべきではないと住民が考え、企業は撤退(89~90頁)。政治家の美辞麗句を鵜呑みにせず、システムは性悪説で設計すべきだ(96頁)。

 

 第Ⅱ部では、モバイル決済アプリの危険性に対して警告。世界中でキャッシュレス化がよいものと思い込まされているが、通貨がデジタル化されたら、システムが止められたとき自分を守るすべがなくなる(172頁)。スウェーデンにタンス預金が少ないのは将来への不安が少ないからだ(188頁)。真の「経世済民」が大切だ(189頁)。

 

 第Ⅲ部では、GIGAスクール構想を批判する。子どもの成績、マイナンバー、健康保険などを紐付ける動きがある。近い将来子どもたちの総合データの収集が可能になるだろう(198頁)。5G基地局の電磁波による健康被害の懸念もある。ベルギー、スイス、イタリアなどでは5G基地局設置は禁止(200頁)。教科書のデジタル化は教師の多様性をなくす(203頁)。人間は対面でふれあって初めて共感を育む脳機能がオンになる(205頁)。米国チャータースクール制度は利益至上主義で教育内容の質が低下した。教育は売り物ではない(230頁)。スマホ・タブレット等に比べ、紙に触れ手で書く方が記憶力が優位になる(248頁)。画面を通して人に会っても、生物学的なメカニズムが作動しない。(256頁)荒川区では図書館や新聞記事を活用する(257~260頁)。想像力を使って他者に共感する訓練が大事だ(263頁)。フィンランドでは教育の質を上げる方法を模索し続けた(268頁)。デジタル・ファシズムの中で最もファシズム化していく分野は教育だ(270頁)。人間らしさを失わないためにもう一度じっくり考え直すべきだ(271頁)。

 

(政治学、法学)

丸山真男『日本の思想』、石田雄『平和の政治学』、高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』、湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』、小林節『白熱講義! 日本国憲法改正』、木村草太『憲法の創造力』、松元雅和『平和主義とは何か』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、林信吾『反戦軍事学』、田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』、読売新聞社会部編『ドキュメント検察官―揺れ動く「正義」』、原田國男『裁判の非情と人情』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、池上彰『世界を動かす巨人たち<政治家編>』『世界を動かす巨人たち<経済人編>』などなど。 (R4.4)