James Setouchi
2024.9.8
法・政治
高橋哲哉『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』集英社新書2015年6月
1 著者 高橋哲哉(1956~)東大教授。専攻は哲学。著書『逆光のロゴス』『記憶のエチカ』『デリダ 脱構築』『戦後責任論』『歴史/修正主義』『証言のポリティクス』『反・哲学入門』『教育と国家』『靖国問題』『犠牲のシステム 福島・沖縄』など(本書の著者紹介から)
2 内容の紹介
はじめに:「日本は、一貫して沖縄を、ただ自己利益のために利用してきたのではかったか。」(p.4)「私は本書で、このようにして沖縄を利用し、犠牲にしてきた『本土』の側の責任について、考えてみたい。」(p.5)、とする。
第一章 在沖縄米軍基地の「県外移設」とは何か:沖縄の米軍基地について、大田昌秀(もと県知事)、知念ウシ(沖縄出身のライター)、野村浩也(広島修道大)らの主張を紹介しつつ、米軍基地の「県外移設」の要求は、「安保が必要だと言うなら、『本土』も応分の負担をすべきではないのか。基地は全国で平等に負担すべきではないのか。安保を必要としている『本土』に引き取るべきではないのか。…」という沖縄から「本土」への問いかけである、とする(p.46)。
第二章 米軍基地沖縄集中の歴史と構造:サンフランシスコ講和条約発効当時、「本土」には多数の米軍基地があった(「本土」と沖縄で九対一)(p.50)。講和条約発効と同時に海兵隊はいったん米国に撤収したが、朝鮮戦争勃発と同時に第三海兵師団は岐阜・富士に司令部を置き、横須賀・御殿場・大津・奈良・和泉・堺・神戸などに部隊を置いた。その後海兵隊はどんどん沖縄に移駐していく。なぜか。「本土」各地で米軍基地への反対運動が激化したからだろう(p.51)。1972年の「復帰」直後、米国国防総省は沖縄やハワイなど太平洋の海兵隊をカリフォルニアに統合することを検討するが、日本政府が海兵隊を沖縄に引き留めた(p.55)。現在は「本土」と沖縄の面積比は99.4対0.6%だが米軍基地の面積は沖縄が73.9%(p.123の表)。従来も沖縄県外への移設論はあったが、結局「県外移設を阻んでいるのは『本土』の国民である」とする(p.75)。日米安保条約については、アンケート調査をすると「日本の平和と安全に役立っている」とする人が8割を超える(p.81)が、では、米軍基地を沖縄から移設し自分の地域に受け入れるかと、それはしない。「これこそ県外移設を県外移設を困難にしてきた根本要因にほかならない。」(p.79)とする。
第三章 県外移設を拒む反戦平和運動:「反戦平和運動」において「日米安保条約をやめて、米軍基地は日本からすべて撤去すればよい」とする立場もあるが、実際にはこの主張が県外移設を遠ざけてきた、とする(p.96~p.112)。土井智義氏の「『県外移設』論を批判的に考える」における、県外移設論は「軍隊や国家の存在を問わない」から問題だ、との主張に対して、「軍隊や国家の存在を問う」ことと県外移設の追求とは両立する、と反論する(p.116~p.119)。県外移設は犠牲を沖縄から「本土」に移すだけではないかとの批判に対しては、米軍施設の全くない十八府県で分散して負担すればよい、と反論する(p.119~p.125)。「沖縄の本土化」という言葉も的外れだ、とする(p.125~p.128)。
第四章 「県外移設」批判論への応答:知念ウシの「日本人よ、沖縄の基地を引き取りなさい!」という主張に対して、石田雄(高名な政治学者)が往復書簡をしているが、これに対しても高橋哲哉は「『本土』の反戦平和運動も、戦後民主主義の政治学も、沖縄からの県外移設要求によって従来の姿勢の全面的再検討を迫られているのではないか」とする(p.130~p.140)。新城郁夫(沖縄で県外移設論を批判している人)の議論(県外移設論は「倒錯的要求」だが、2011年のオスプレイ配備に反対し普天間で座り込みをした人はすばらしい、とする)に対しても、野村浩也の言葉を援用しながら反論する(p.141~p.182)。
終章:差別的政策を終わらせるために:中国の脅威ゆえ沖縄に米軍基地を置く、という論について、戦前の沖縄を「日本防衛」のための軍事要塞としてきた論理の反復だ、植民地主義の論理だ、とする(p.182~p.187)。日本は米国の属国だから責任はないとする論に対しては、在沖米軍に対し日本政府は決して無力ではない、「対米従属」は「自発的従属」である、とする(p.187~p.188)。「沖縄独立」論に対しては、沖縄が独立したら基地は沖縄なき日本が引き取ることになる、とする(p.189~p.190)。
あとがき:大阪に関西沖縄文庫というサークルがあり、沖縄への差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動をしている、と紹介する(p.194)。
(コメント)
沖縄米軍基地問題は安保条約・自衛隊問題と連動している。内容を別として単純に形式論理的に整理すれば、①安保・米軍を拡充し自衛隊も拡充する②安保・米軍を拡充し自衛隊を縮小する③安保・米軍を縮小し自衛隊を拡充する④安保・米軍を縮小し自衛隊も縮小する、の四つの組み合わせがありうる。ここではこれ以上はコメントしない。高橋哲哉は本書でいくつかの異なる主張を踏まえながら以上のように論じている。あとは各自で知見を高めご判断頂きたい。なお、下の本も有益。
(政治学・法学)
丸山真男『日本の思想』、石田雄『平和の政治学』、加藤節『南原繁』、明石康『国際連合』、林信吾『反戦軍事学』、孫崎享『日米同盟の正体』、岩下昭裕『北方領土・竹島・尖閣 これが解決策』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、柳澤協二『自衛隊の転機』、石破茂『国防』、豊下楢彦・古関彰一『集団的自衛権と安全保障』、伊藤真『憲法の力』、松竹伸幸『憲法九条の軍事戦略』、木村草太『憲法の創造力』、松元雅和『平和主義とは何か』、イェーリング『権利のための闘争』、京極純一『現代民主政と政治学』、内田貴『民法改正』、荘司雅彦『13歳からの法学部入門』、高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』、『老子』など