James Setouchi
2024.9.8
経済・経営?
ジム・ロジャーズ
『日本への警告 米中朝鮮半島の激変からお金の動きを見抜く』
講談社+α新書 2019年9月
1 ジム・ロジャーズ:投資家。1942年米国アラバマ州生まれ。ウオール街で成功したのちコロンビア大学で金融論を教えるなどした。2007年にシンガポールに移住。著書『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行』『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見』『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと』『お金の流れで読む日本と世界の未来 世界的投資家は予見する』など。バイクで世界旅行をする人でもある。(新書の著者紹介などから)
2 コメント:2019年3月のインタビューをもとに構成した書物のようだ。おすすめできる本かどうかはわからない。本屋で売れているようだ。「日本の未来が危うい」と脅すようなことを書いて本を売ろうとしているのであって、話半分で聞くべきかもしれないな、と思いつつ読んだ。が、読み進めていくと、なるほどそうかもしれないと思える内容もあった。警告された弱点は自覚すれば改善もできる。少し紹介してみよう。
第1章「日本人が見て見ぬ振りをする、破滅的な未来」では、少子高齢化、多額の財政赤字、長期債務残高、公的年金破たんの不安、自殺率の高さなどがあるにもかかわらず、その根本原因が分からず今の日本人は途方に暮れている。アベノミクスの円を刷りつづける政策は誤りだ、近い将来日本語を話す人が消滅し中国語を使っているかもしれない、などと警告する。対案として、出生率をふやすか、移民を受け入れるか、日本を飛び出すか、と著者は書く。
これに対し、一人当たりGDPが高ければ日本列島の人口は6~8千万で適正だ、労働力は機械で代替する、問題は富と技術の独占を打破と公正な分配だ、エネルギーと食糧の自給自足ができれば国民生活は安泰だ、という考え方もあるはずだが、著者はそこは書いていない。
第2章「日本人が今克服すべき課題」では、女性が社会に進出できるようにすべきだ、移民を受け入れよう、外国人留学生を受け入れ英語による授業をしよう、但し移民受け入れはコントロールすべき、子や孫には中国語を学ばせよう、昔ながらの高品質を武器にしよう、マニュアル主義を見直せ、武器を買わず防衛費を削減し減税を実施し、農業の可能性に目を向けよう、外国人(特に中国人)向け観光業・アウトバウンド(一粒5万円のイチゴの輸出など)にも目を向けよう、未来を読むために歴史に学べ、世界を旅し変化を肌で感じ取れ、などと著者は述べる。
個々の処方箋の当否についてあなたはどう考えますか? どれも大きな議論になりそうなテーマばかりだ。移民受け入れは日本はその方向に舵をきった(2018~19年で)と言えるのだろうが、単なる労働力として移民や日本の労働者(若者や高齢者)が安く使い捨てられるのではなく、人間として本当に幸せに暮らせるにはどのような仕掛け(システム構築)が必要か? を考えるべきだろう。例えば農業について日本人がやらないなら外国人がやればいいと著者は述べるが、外国人の巨大資本家が日本で農業法人を経営し、日本人及び移民の皆さんが安く使い捨てられる、労働基準法も守られない、環境も汚染される、という未来は、いかがですか? 私はうれしくはない。
第3章「アメリカ、中国、朝鮮半島―これが変化の本質だ」では、トランプの保護主義は誤りでアメリカ経済を衰退させる、中国人は昔から企業家精神が強かった、次の覇権国は中国だ、朝鮮半島は統一され北の豊富な地下資源と若い女性の力とで韓国経済は潤う、金正恩はスキー場開発等など前向きな変革を行いつつある、ロシアは極東に力を入れておりウラジオストクは世界でもワクワクする都市になる、インドは官僚制度が最悪で言語も多様だから難しい、コロンビアは医療用大麻が合法化され経済成長する、などと著者は述べる。
これに対し、朝鮮半島の戦争を回避するのは良いが、民主主義や言論・思想の自由はいかに保たれるのか? も大事だ。中国の覇権について著者は有望視するが、別のある人は中国のやり方は植民地主義でアフリカでは嫌われていると書いていた。著者はこれらに言及しない。投資に成功すればよいのであって人権や民主主義については関心が薄いのかもしれない。あるいは、東アジアの細かい事情について不案内なのかもしれない。
第4章「家族とお金を守るために私が学んだ九つの成功法則」および第5章「これからの時代に勝つ投資」…略
私見だが、人は金儲けのためだけに生きるのではない。聖書には「人は神と富とに兼ね仕えることはできない」とある。内村鑑三は明治以降の拝金主義文明を厳しく批判した。渋沢栄一は倫理と利益の両立を考えた。商業系の高校・大学などに行くと「士魂商才」が校是だったりする。皆さんはどう考えますか?
(商学・経営学・経済学など)川上徹也『「コト消費」の嘘』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、藻谷・山田『観光立国の正体』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、増田寛也『地方消滅』、ロジャーズ『日本への警告』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、スィンハ『インドと日本は最強コンビ』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』、渋沢栄一『論語と算盤』、斎藤幸平『人新世の「資本論」』などなど。