James Setouchi
2024.9.7
経済・社会
天野祐吉 『成長から成熟へ―さよなら経済大国』集英社新書 2013年
1 天野祐吉:1933(昭和8)年~2013(平成25)年。
東京都足立区千住の生まれ。戦後アメリカ文化の洗礼を受ける。一時松山中学、松山東高校に在籍、松山南高校卒、明治学院大学中退、出版社勤務を経て1961(昭和36)年博報堂(広告会社)に入る。『広告』というPR誌の編集に携わる。退社ののち1979(昭和54)年『広告批評』創刊。一世を風靡する。2009(平成21)年終刊。著書『広告論講義』『天野祐吉のCM天気図』『私説広告五千年史』など。(新書カバーの著者紹介ほかを参照した。)
2 『成長から成熟へーさよなら経済大国』
天野祐吉という人は、素敵な人だ。おしゃれで、賢く、ものがわかっている。この本は平易な語り口で語られていて、素敵な大人に喫茶店で何時間か話を聞けて勉強になり元気も出てきた、と思えるような本だ。(惜しくも亡くなってしまったが。)いくつか紹介するとー
・8・15の敗戦と3・11の大災害が大きい。「8・15で成長社会が始まり、3・11で成熟社会への転換が始まる」(210頁)天下一品などの「一品」「二品」「三品」とは別格ですぐれたものを「別品」と呼んだ。「日本は一位とか二位とかを争う野暮な国じゃなくていい。『別品』の国でありたいと思う」(212頁)
・「計画的廃品化」「計画的陳腐化」「計画的老朽化」「計画的廃物化」という手法で、商品を買い換えさせる方法が従来蔓延してきた(30頁)。大量消費社会(大衆消費社会)は20世紀が生んだ特異な産物だ。1900年のパリ万博がその登場を派手に告げた。この時世界から5000万人以上の人が押しかけた。(1970年の大阪万博は6000万人)。ヘンリー・フォードが大量生産の道を開き、GMのウィリアム・デュランが大量消費の道を開いた(45頁)。アーサー・ミラーの『セールスマンの死』(1949年)には計画的廃品化の現実が描写されている(48頁)。浜矩子(はまのりこ)はデヴィッド・マメットの『グレンギャリー・グレン・ロス』(1983年)と比べ、後者ではさらに欲望丸出しになっている、と指摘する(49頁)。
・戦後の1960年代の広告ラッシュの中で浮かび上がるライフスタイルは、「マイホーム主義」的ライフスタイルと言っていいものだった(95頁)。1970年代には無形商品、情報型の商品が市場の主役になり、生活を楽しくするコトに消費の重点が移ってきた(96頁)。印刷メディアは世界の輪郭をはっきりさせるが、TVメディアは世界の輪郭を不鮮明にする、とマクルーハンは言う(99頁)。1970~1980年代は、欲望の計画的廃品化がピークに達したときだ(109頁)。90年代から低成長期に入り、糸井重里は「豊かな生活」ではなく「おいしい生活。」を提案した(116頁)。糸井重里は成長主義の呪縛から消費社会を少しでも解放しようとしたのでは(118頁)。
・1991年にバブルがはじけた。宮沢喜一首相が「生活大国五カ年計画」を出した。わかりやすく言い直すと、日々の生活の中で本当の豊かさとゆとりを実感できる国、多様な価値観を実現できる機会がみんなに等しく与えられる公正な国、美しい環境のもと簡素なライフスタイルで生活を楽しめる国、がコンセプトだった(153頁)。戦後の「貧乏暇なし」国から抜けだしたが今は「金持ち暇なし」国になった。これからはどうか(157~161頁)。国際人は英語ができてネクタイをして商談をする人だが、地球人は英語などしゃべれなくてもGパンをはいて現地の人とすぐ仲良くなる人(169頁)。先進国が競争して自国商品を売り込む結果、途上国を荒れ地にし、エネルギー問題や環境問題を深刻化させる(171頁)。東日本大震災と福島第一原発の事故は多くの人に反省の機会を与えたはずだ(174頁)。デニス・ガボールは生活の質の成長を説いた(176頁)。シューマッハーは、GDPは純粋に数量的な概念でしかなく、生活の質の問題を避けて通る、と指摘する(177頁)。セルジュ・ラトゥーシュは、幸福は消費の度合いで決まるわけではない、と指摘し、脱成長のエッセンスは、ゴミ・環境への負荷・過剰生産・過剰消費を減らすことにある、と述べる(181~184頁)。実際、計画的廃品化の結果出たパソコンのゴミがガーナの村に大量に積み上げられている事態を、どうするのか(185頁)。浜矩子は、「老楽(おいらく)国家」を提唱し、「分かち合い」「多様性、まさにダイバーシティと包摂性の出あい」を説く(187頁)。ロブ・ホプキンスは「トランジションタウン運動」を提唱している。食糧、地域通貨、エネルギーなどを地域で、まかなう。(195~196頁)
(経済・社会)飯田泰之他『地域再生の失敗学』、藻谷・山田『観光立国の正体』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、増田寛也『地方消滅』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、スィンハ『インドと日本は最強コンビ』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、浜矩子他『日本人の給料』、榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』、見田宗介『現代社会の理論』、天野祐吉『成長から成熟へ』、斎藤幸平『人新世の「資本論」』、安田浩一他『外国人差別の現場』、芹澤健介『コンビニ外国人』などなど。