James Setouchi

2024.9.7

 石井光太『世界と比べてわかる日本の貧困のリアル』PHP文庫2023年8月

 

1 著者 石井光太:1977年東京生れ。作家。世界の物乞いや障がい者を追った『物乞う仏陀』でデビュー。世界の貧困地域を訪れルポを書いている。著書『絶対貧困』『浮浪児1945-』『子どもホスピスの奇跡』『本当の貧困の話をしよう』『漂流児童』『それでも生きる』など。(本書の著者紹介他から)

 

2 『世界と比べてわかる日本の貧困のリアル』

 「はじめに」に、「日本は先進国の中でワースト4位の貧困国である」「貧困という言葉は同一であっても、日本の貧困は途上国のそれとはまったく形態が異なる」「日本で相対的貧困に当たる人の数は、約2000万人」「日本が瀕している数多の社会問題は、ほとんど貧困と関係している」とある。

 「おわりに」に、「途上国に比べれば日本はマシ」という人がいまだにいるが、貧困については、言葉は同じでも、「国や地域によって表出する問題は全く違う。」「もし日本の貧困を本気で改善したいなら、日本の貧困の品質を正確に理解しなければならない。そのためには、途上国の貧困と比べることで、日本の貧困の実態がどのようなものであるかを把握することが手近でわかりやすい。」とある。これが本書執筆の目的だ。

 

(1)住居:途上国の都市は、経済的な階層によって居住地区が区分される。日本では、高所得者と低所得者とが混住している。途上国では、スラムの中でもコミュニティーが多様に存在する。日本では、コミュニティーがあてにできず、国の福祉制度を頼る。低所得の人は貧困故に劣等感を持つ。世界の子どもの10人に1人が児童労働に従事している。人身売買もある。日本では住宅の狭さ+家族関係の悪さで家族の崩壊が起きる。

 

(2)路上生活:日本ではホームレスで生活保護を拒否する人もある。途上国では行政のセーフティネットがなく、家族福祉か自分自身による福祉しかないことが多い。コミュにティ内で助け合うしかない。日本では社会的偏見と劣等感が人をホームレスにする。途上国では路上生活者は家族で過ごす。日本ではホームレスにおける障がいや疾患の保有率が高い。途上国では弱者は「自然淘汰」される。

 

(3)教育:途上国では、子どもが働いて生活を支える、学校の数が少なく遠い、義務教育に該当しない(不法越境などの)子がいる。これらの子どもたちは学校に通えていない。日本には義務教育という恵まれた制度があるが、教育格差もある。途上国では生きるためにすぐ役立つ授業をする。日本は全員が一定以上の教育を受けられ機会を貰えるが、経済格差が有利不利を生み出す。経済格差が子どもたちに劣等感を生む。途上国では、国によって男女の教育格差が異なる。インドネシアの漁村では男子は十代で漁師になるが女子は学校に行き町や外国で働く。

 

(4)労働:途上国では貧困から抜け出す例が一握りだがある。日本では成り上がることは非現実的だ。見通しのつかない生活への不安がある。生きてはいけるが希望がない。途上国では仕事を失ったら、経済難民になる(他国に出稼ぎに行く)場合も。日本では公的福祉があるが、世代を超えて貧困が連鎖することがある。途上国では最後は物乞い(しかも家族揃っての)がある。宗教信仰に基づくセーフティーネットだ。

 

(5)結婚:スラムは家庭内相互扶助システムを強化しコミュニティー内の結束を高めるため早婚が多い。日本は結婚は生活レベルを落とすとみなされたりもするが、結婚による階層の逆転をする場合もある。途上国では、早婚は子どもの安全を守る手段でもある。日本ではホームレスの男女比は23対1だ。ホームレスには家族がいない。日本では教育費が高く子どもの中絶もある。

 

(6)犯罪:途上国では警察が腐敗し庶民も常習的に違法行為をする。日本では合法か非合法化のラインが細かく定められている。途上国では受刑者は劣悪な環境に絶望する。日本では刑務所が犯罪を増加させるという逆説的な事態も。途上国の貧困ビジネスは臓器売買など貧困者自身が商品になる。日本では貧困者の権利が換金される。途上国では場合によっては犯罪組織が人々の生活の面倒を見るので絶大な支持を受けることも。

 

(7)食事:途上国では稼いだ金の大半は食事代に。栄養失調も栄養不良もある。日本でも餓死者が出ている。生活保護受給者の4割が食事を一日二食以下に抑えている。あるシングルマザーの家庭では、朝食は取らず、夕食はケチャップやマヨネーズをつけた米だけ。母親の仕事場のまかないや子どもの学校給食で何とか健康を維持している。途上国では階層によって食事は分断されている。途上国の貧困フードには危険性も大きい。日本では高所得者層は栄養バランスの良いものを食べるが貧困層はそうではない。

 

(8)病と死:途上国では免疫力が低く環境も危険で、かつ途上国特有の病気(マラリヤ、狂犬病など)もある。日本では低所得者は高所得者の3倍の死亡率。途上国では病気になっても治療を受けられない。公営の無料の病院も限界がある。安価なコピー薬や伝統薬が出回る。人と人が優しくつながっている場合も。日本の医療費3割負担は、低所得層の人にとって(1日の食費を1000円以下に抑える人にとって)は負担だ。途上国では葬儀の費用が出ない場合死体を前面に出し乞食をすることも。日本では孤独死は毎年3万人。40才くらいから徐々に増え60代でピーク。身寄りがなく、葬儀会社か自治体が遺骨を預かる場合も。

 

3 コメント:今すぐ全てを解決できるわけではないが、少なくともこの問題を知って、ではどうすればよいか、の問題意識を持ちたい。平和で豊かな日本の経済力のある家庭に生まれたのは偶然で、本人の努力ではない。途上国の路上に生まれたのも偶然で、本人の努力不足ではない。では、社会正義の実現のために、どうすべきか?                             

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