James Setouchi

2024.9.7

経済・社会

 

榊原英資『中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく』2015年

 

1 著者 榊原英資(さかきばらえいすけ)1941年~

 東京生まれ。東大経済学部卒業後、大蔵省入省。ミシガン大学で経済学博士号取得。IMFエコノミスト、ハーバード大学客員教授、大蔵省国際金融局長、同財務官を歴任。為替・金融制度改革に尽力。「ミスター円」と呼ばれる。1999年退官後、慶応大、早稲田大、青山学院大教授を務める。(財)インド経済研究所理事長。著作『国家の成熟』『仕事に生きる教養としての「日本論」』『経済交渉にみた本物の交渉力』など。詩想社新書のカバーの著者紹介から)

 

2 目次

はじめに 二極分解し、貧困化していくサラリーマン層

第1章 アベノミクスの展開と終焉

第2章 世界経済停滞の流れを読む

第3章 「近代資本主義の終焉」という大転換

第4章 一億総中流の「奇跡」はいかに実現したか

第5章 二〇二〇年東京オリンピックを迎える日

第6章 インターネット社会が変える私たちの生活

第7章 サラリーマンたちが下層化していく

第8章 「ゼロ成長」時代のこれからの日本

 

3 感想

 経済の専門家による本。しかし一般向けに分かりやすく書いてある。グラフや表を多用しているので、グラフや表を読み取る練習にもなる。

 

 日本の高度成長期、安定成長期は終わり、相対的貧困率が上昇している。特に片親の子供の貧困率が上昇している。ゆえに格差の拡大を阻止し、そこそこ平等な日本の資産、所得構造をどう維持していくか、が今後の重要な政策課題となる。そのためには政府が積極的に所得再分配政策を推進していく必要がある。いずれ消費税率を引き上げる時には、それを単に財政赤字の解消にあてるだけではなく、例えば、増収分の半分程度を福祉の拡大による格差解消に向けるべきだろう。そのかなりの部分が出産、育児、教育等若い世代の貧困の是正にさかれるべきだ。結論部分で著者はおおむねこのように主張している。(p.237)

 

 あなたは、どう考えるか。アマゾンの書評などを見ると、税収については消費税を中心に述べているが、トービン税、金融取引税を導入する意見もあっていいはずだ、などというものがあった。また、所得税、法人税を上げるべきだという意見もあり得るだろう。また、著者は「長い16世紀」に始まる近代資本主義の終焉を言うが、そこが面白い、という感想と、そこまでは言えないだろう、という感想もあった。私が十代だった頃は「一億総中流」と言われた。それがどうして実現し、どうして壊れたか、も考察してある。経済学部の人はもちろんそうでない人も読んでみられることをおすすめします。

 

(経済学・経営学など)榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』志賀櫻『タックス・ヘイブン』朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、増田博也『地方消滅』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』などなど。