James Setouchi

2024.9.7

『階級都市  格差が街を侵食する』橋本健二  ちくま新書  2011年12月    

 

1 著者紹介

 1959年生まれ。東大教育学部卒。同院博士課程修了。現在武蔵大学社会学部教授。専門は社会学(階級論)。著書『「格差」の戦後史』『階級社会』『現代日本の階級構造』など。

 

2 目次

 東京のなかの東北 序にかえて

第一章      風景としての格差社会

第二章      なぜ「階級都市」なのか 都市構造と資本主義

第三章      異国の風景 「下町」と「山の手」の言説史

第四章      進行する都市の分極化 統計でみる階級都市

第五章      階級都市を歩く

第六章      階級都市から交雑都市へ

 

3 内容からいくつか紹介する

序にかえて;2005年のデータによれば、南関東とその他の東北出身者では、学歴が高いほど東京で働く人の比率が高い。東北出身者は、学歴が何であれ就職の機会を得るために東京へやってくる。(p.9)

 

第一章;六本木ヒルズは家賃平均月150万円で世界的な富裕層が住む。その下にはまだ木造住宅がありコントラストが鮮烈だ。(p.21)ジニ係数(格差を示す係数)は、1960~80年は横ばいか下降、80年以降は上昇。(p.29)OECDの三分の二の国で経済的格差の拡大・貧困率の上昇が見られる。(p.34)グローバル・シティ形成の過程でgentrification(富裕化)が起こり、エリートが移住してくると旧来の住民は出ていく。他方残存した住民もいるのでエリア内部の格差も拡大する。(p.38) 

 

第二章;東京についての言説は多々あったが、現代資本主義論と結びついた研究は有益だ。都市を消費の場、生産の場、社会構造の空間的表現、としてとらえる。(p.48)

 

第三章;山の手・下町の区別と格差は江戸時代からあったが、明治以降今日に至るまでそれは形を変えて続き、かつ変容している。標高20メートルの等高線の上と下がその境界の目安だ。(p.97)下町は本来工業地帯であり震災や空襲で焼け死者も多かった。(p.113)

 

第四章;港区など都心四区と、足立区など下町では、明白に格差がある。一人当たり課税対象所得は4対1。学歴や国語の点数や平均寿命までも違う。(p.129~p.138)都市は分極化している。(p.165)

 

第五章;以上のことは、データでも実証できるが、実際に歩いてみると実感する。

第六章;では、どうすればいいのか。格差・隔離・差別・排除が起こらぬよう、賢く交流するのがよい。「交雑都市」を著者は提案する。(第六章)

 

4 感想

 東京の山の手と下町を歩けばだれでも実感することが、ここでデータではっきりと示されている。かつ、近年の格差拡大についても。各種データと著者自身が歩いてみての感想とが組み合わさり、説得力のある一冊になっている。私は恐ろしくなった。こんなにもはっきりと格差は実在し都市の景観の中にビジュアルに視覚化され、しかも再生産され拡大している。そう言えば2011年の東電の計画停電でも足立と荒川がまず犠牲(?)になった。本当は電力は足りていたのに示威行動として計画停電を行ったのだ、と詳しい人が書いていた。「下町情緒」などとのんびりできないものがここにはある。ことは人権の問題だ、と感じた。では、地方都市や農山漁村はどうか? 皆さんはどう考えますか?                              

 

(格差・貧困・経済・都市・地方)青砥恭『ドキュメント高校中退』、堤未果『(株)貧困大国アメリカ』、関水・藤原『限りない孤独 独身・無職者のリアル』、三浦展『下流社会』、アマルティア・セン『貧困の克服』、ムネカタミスト『ブラック企業の闇』、今野晴貴『ブラック企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、湯浅誠『反貧困』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、服部茂幸『アベノミクスの終焉』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、藻谷浩介『里山資本主義』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、三浦展『東京は郊外から消えていく!』、増田寛也『地方消滅』など