James Setouchi

2024.9.7

経済・社会

 

増田寛哉・冨山和彦『地方消滅 創成戦略編』

井上恭介・NHK「里海」取材班『里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く』

 

1 増田寛哉・冨山和彦『地方消滅 創成戦略編』中公新書(2015年8月)

 増田寛哉『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(2014年)を受けて書かれた、ではどうすればよいか、の提案を書いた本。増田氏は建設省官僚、岩手県知事、総務大臣などを経験してきた人。『地方消滅』では若年人口女性の人数・移動の実態のデータから、少子化・地方都市の多くが消滅することを予言し、日本中に衝撃を与えた。本書『地方消滅 創成戦略編』では、

(目次)第1章 消滅機器の実態とチャンス/第2章 L型大学から地方自治まで/第3章 地方発イノベーションの時代

として、具体的な戦略を提案しようとする。冨山和彦氏との対談である。冨山氏は、スタンフォード大学などに学び、コーポレイトディクション、産業再生機構などを経験し、今は(株)経営共創基盤のCEO(代表委取締役)。ここでかわされている会話は、例えば、

・地方は賃金水準が低い。地方の中山間地域で結婚して子供を育てるだけの収入を得ることは困難(p.34~35)

・地方の県庁所在地または第二、三の都市(倉敷・福山・呉など)に夫婦で500万円稼げる仕事をつくるべきだ(p.34)そのために「選択と集中」「新陳代謝」「コンパクトシティ化」(p.23)「強きを助け、弱きを退(ひ)かせる」(p.54)ことが大事だ。

・地方大学は学術の中心であるという従来の概念を捨て、簿記会計や商売・観光業用の英語や宅建合格を目指す専門学校化すべきだ(p.65)

・21世紀の東大はベンチャー企業を多く生み企業価値は1兆3000億円。日本のシリコンバレーはまず東大だから、ここを拠点にするとよい(p.145ほか)

 などと書いており、刺激的(むしろ衝撃的)だが、弱者(地方に取り残された高齢者や競争に参入できない人)には厳しい発想だと感じた。「強きを助け、弱きを退かせる」と安易に言うが、退場した人はどこへ行けばいいのだろうか。著者二人には渋沢栄一『論語と算盤』、続いて『孟子』をお薦めしたい。ドストエフスキーも読んでほしい。「ににんがよん、は悪魔の思想」とドストエフスキーは言った。

 

2 井上恭介・NHK「里海」取材班『里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く』角川新書(2015年7月)

 藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義 日本経済は「安心」の原理で動く』(2013年)の続編。藻谷浩介氏は、日本開発銀行などを経て、(株)日本総研の主任研究員。世界規模のマネーゲームの餌食に弱い国が次々となっていることから、グローバル市場経済とは別のサブシステムとしてマネーに依存しない「里山資本主義」を提唱、中四国地方の成功例を紹介し、ベストセラーとなった。本書はその続編で、著者は井上恭介(NHKエンタープライズのプロデューサー)。藻谷浩介は解説を書いている。

(目次)第1章 海からの地域再生/第2章 「邪魔もの」が21世紀の資源/中間総括 「地球の限界の克服」という課題/第3章 「SATOUMI」が変える世界経済/第4章 〝記憶〟と〝体験〟による「限界」の突破/第5章 広域経済圏となる「里海」/最終総括 里山・里海が開く未来となっている。紹介されている事例は

・広島湾のカキ筏が瀕死の海を回復させた(p.33)。岡山の日生(ひなせ)は海にカキ殻を撒き、アマモを増やして魚の量を増やした(p.74)

・広島の上蒲刈島ではホンダワラをミカンの肥料にする(p.83)。また愛媛の弓削島ではアマモをキャベツやねぎの肥料にする(p.84およびp.120)。同じく弓削島ではレモンのしぼりかすを豚のえさにしてみたら大成功(p.122)

・同じく弓削島にはお年寄りが暮らす小規模多機能施設がある。暖かな日光、心地よい海風や空気、新鮮で食べなれた食事、やさしく寄り添う若者がいるので人は生き生きしてくる(p.139)

・尾道の向島では綿花を栽培し草木染をする人がいる(p.142)。除虫菊を植えて美しい景観を作り出している人もいる(p.148)

 これらの成功事例を紹介するだけではなく、グローバル市場経済の猛威が自然や人間を破壊する現状を批判し、次のシステム(安心・共生の世界)のヒントを与えてくれている。NHK取材班の地道な取材にも敬服する。だが、いくつかの成功例ではあるが、果たして皆がこのようにうまくいくのだろうか? では自分なら何ができるのか? という問いを持った。                                

 

1の増田・冨山氏と2の井上・藻谷氏は、立場が言わば正反対だ。どう考えるか。

 

(他の参考図書)矢作弘『「都市縮小」の時代』、三浦展『東京は郊外から消えていく!』、増田寛也『地方消滅』、増田・冨山『地方消滅 創成戦略編』、藻谷浩介『里山資本主義』、井上恭介『里海資本論』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』