James Setouchi
2024.8.30
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』新潮文庫
1 『ゴールデンスランバー』 2007年新潮社から単行本、2010年新潮文庫。
エンタメ小説。場所は仙台市。金田首相が街頭演説中にドローン攻撃で爆殺された! 犯人とされた青柳雅春(宅配便業者)を警察が追い詰める。だが、それは巨大な権力による陰謀であり、無実の青柳は周到に犯人として仕立てられていた。
その後事件の関係者が次々と死亡、事件の闇の深さを窺わせる。事件から二十年後、青柳が犯人だと信じる者はいなくなっていた。代わりにもっと巨大な国家レベルの陰謀さえ語られるようになっていたが、事件の真相は闇の中だ。
序盤でここまでが明らかにされ、本編では、権力から逃亡する青柳と、彼を助ける少数の人びとの活躍とが、生き生きと描かれることになる。完全な監視・管理社会のシステムの中、青柳は逃げおおすことが出来るのか? 誰を信じればいいのか? 誰が裏切るのか? ハラハラドキドキする。結構面白い。後半ほど疾走感もある。伏線もうまく回収してある。
事件は、ケネディ暗殺事件と類似している。犯人とされるオズワルドは警察に連行中に射殺された。同様に青柳も殺害されるのではないか? と不安になる。権力を操る連中は恐ろしい。自分たちの利権のために、邪魔者を殺害し、偽の犯人を作り出し、世論を操作する。おや、どこの国のことだろうか・・・
途中途中でビートルズの『ゴールデンスランバー』という曲の歌詞が挿入される。青柳と友人たちの楽しかった青春時代。しかしそこへ戻る道は、もうない。
2022(令和4)年7月8日、参議院選挙期間の街頭演説中に、安倍晋三元首相が銃撃された! 伊坂幸太郎が本作を書いたときは、安倍元首相銃撃事件を予測してはいなかったに違いない。ケネディ暗殺は有名なので、それをヒントにしてエンタメを書いたのだろう(と推測する)。
ロシアのドストエフスキー(~1881年2月)は『カラマーゾフの兄弟』(1879~1880連載)を書き、その続編で皇帝暗殺のシナリオを考えていた、としばしば言われる。皇帝アレクサンドル2世は、実際に1881年3月に暗殺された。優れた文学は時代を深く読み取り思索して書かれているので、しばしば時代を予見し事件を予言する。『カラマーゾフの兄弟』はその一つとしてしばしば言われる。但し、ドストエフスキー存命中から、皇帝暗殺未遂事件は多発していた、と研究者は記している。
2 登場人物(ネタバレしないように)
青柳雅春:宅配業で働く。青春を引きずっているが・・
森田森吾:青柳の友人。
小野一夫(カズ):青柳たちの後輩。
樋口晴子:青柳の昔の彼女。今は夫と娘がいる。
平野晶:樋口晴子の友人。息子がいる。
菊池将門:平野晶の彼氏。セキュリティ関係の専門家。
轟社長(ロッキー):花火会社社長。
三浦:アウトローの若者。青柳と知り合う。
保土ケ谷康志:入院患者。六十才過ぎ。「詰んでるな・・」が口癖だが・・
岩崎:宅配業の青柳の先輩。ロックが好き。
凜香:アイドル。かつて青柳に助けられたことがある。
佐々木一太郎:警察庁警備局総合情報課。今回の捜査の指揮官。
小鳩沢:青柳に迫る屈強な警察官。
近藤守:青柳に迫る背広姿の警察官。
児島安雄:定年間近の警察官。
矢島:テレビ局の男。
金田貞義:首相。自由党。若きホープだったが、仙台で暗殺される。
海老沢克雄:副首相。自由党の実力者。
鮎川真:労働党の政治家。もと首相。