James Setouchi   第160回(平成30=2018年度下半期)芥川賞 二作

 

 

『ニムロッド』上田岳弘

 

 ビットコインにまつわる話かと思ったら、それだけではなく、バベルの塔を作ったニムロデ(ノアの子孫で、バビロン=バベルに高い塔を作ったと言われる)の神話を織り込みつつ、古代以来人間が積み上げてきた文明が現代において高度なIT文明に達し、近未来に至った時、人間が人間として生きる意味はどうなる? を問おうとした作品だ、と言ってもよい。男女の関係や友人関係も出てくる。現代の都会で漂流する人間の姿を描いている。

 

中本哲史(なかもとさとし):IT会社の社員。ビットコインで埋蔵金を掘り当てる仕事をする。

荷室仁(ニムロッド):中本のもと同僚。作家志望。「駄目な飛行機コレクション」を中本に送る。ニムロッドという名の男が主人公の近未来SF小説を書いている。

田久保紀子:中本のガールフレンド。エリートビジネスマン。過去にトラウマを持つ。

社長:中本の会社の社長。

 

(作者)上田岳弘:1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部に学ぶ。IT会社社員。『私の恋人』で三島由紀夫賞。芥川賞候補数度の後、第160回に『ニムロッド』で芥川賞受賞。

 

 

 

『1R1分34秒』町屋良平

 

 ボクシング小説。と言うより、ボクシングのトレーニングに限界まで打ち込む、トレーニング小説。主人公の独白(モノローグ)で語られるが、減量の苦しみ、トレーナーとのやりとりなどが非常に痛い。ボクシングの技術的な部分も多く書き込んである。主人公は21歳の若者。一応プロボクサーだが弱く、下の方のランク。戦績1勝2敗1分け。迷いも苦しみもある。この苦闘は、ボクシングでなく何かほかのものに置き換えても読める。人生そのものの苦闘の比喩のようでもある。

 

 僕 21歳。プロボクサー。勝てない。対戦相手と友達になる夢を見るなど、妄想癖がある。

近藤青志 僕の対戦相手。僕は夢で青志くんと友達になる。

トレーナー 

友だち 趣味で映画を撮っている。唯一の友だち。

ガールフレンド ジムにやって来た女の子で、ガールフレンドになる。

ウメキチ 僕のトレーナーになる。4歳ぐらい年上の先輩。不思議な理論を有する。

南軒心 僕の対戦相手。

 

(作者)町屋良平:1983年東京都生まれ。アルバイトを経て会社員。『青が破れる』で文藝賞。『しき』が芥川賞候補、『1R1分34秒』で第160回芥川賞。