James Setouchi
早坂暁(あきら)『ダウンタウン・ヒーローズ』新潮社 今西高図書館913.6-635
1 著者 早坂暁 昭和4(1929)年~平成29(2017)年
作家、脚本家。愛媛県北条町(現松山市)生まれ。松山中学→海軍兵学校→旧制松山高校→日大芸術学部を経て、映画・ドラマなどの脚本や小説・エッセイ等を書く。
代表作『天下御免』『夢千代日記』『花へんろ』『ダウンタウン・ヒーローズ』『戦艦大和日記』『花へんろ風信帖』などなど多数。平成29年12月惜しくも逝去。
2 コメント
昔読んだが、今回再読して改めて面白かった。早坂暁自身とおぼしき主人公=語り手「私」は、昭和ひとけた世代である。その、幼少期から戦中戦後を経て朝鮮戦争ころまでを描く。舞台は四国の北条・松山、広島、九州など。「~するんじゃ」「~ぞなもし」などベタな松山弁も面白いが、笑わせる話あり、恐ろしい話あり、しんみりと感じさせる話あり、読ませる本である。ダウンタウンに生息する人々の哀歓をつづり、貧しく弱い立場にある人々への温かいまなざしに貫かれている。題名のダウンタウン・ヒーローズとは誰か。以下に述べられる人々がそれぞれにヒーローなのだろう。以下内容(ネタバレあり)。
(1)刺青
イチ子は松山・道後の遊郭にいる女だ。「私」は旧制松山高校の学生だ。旧制高校の学生なので大変なエリート候補生なのだが、煩悶するところがあって、ダウンタウンで無頼の生活を続け、今はイチ子と同じ刺青を掘ろうとしているのだ…
他に、個性的な松山高校生たちが次々と出てくる。
(2)わが大正座
「私」の家は北条(風早町)(松山北部)の大きな商家の親戚で大正座という劇場を持っていた。そこに事情を抱えた様々な人々が去来する。おこうさんもその一人だった…
(3)女相撲
なんと女相撲の一座が風早町にやってきて、大人気だ。男も女も熱狂した。だが、戦争がはげしくなり、大関雪錦は満州に行きソ連兵に殺された。桃ケ峰は大工のゴロやんに気に入られ幸せな夫婦生活だったがゴロやんは原爆で殺され桃ケ峰も夫を探しに広島に行って二次被ばくで死んでしまった…
(4)別嬪(べっぴん)さん
「私」が乳母に乳をもらった。乳母のユキもまたある事情を抱えた女だった…
(5)続・別嬪さん
加代さんとミツ代さん。「私」の祖母。(略)
(6)夏が来れば思い出す
「私」は軍国少年で、江田島の海軍兵学校に学んだ。戦艦大和に乗り組むつもりだった。だが、敗戦。原爆投下直後の広島では、廃墟に無数の青い火が燃えていた。死体の燐が何万という青い火になって燃えていたのだ…
(7)「理髪師チッターライン」
松山高校のメンバーで演劇をした。二山口という学友(?)が連れてきたサッチャンという遊郭の女をめぐりクチ健というヤクザと対決する…
(8)松山マフィア
クチ健、クチ健の女ルミ子、「私」の好きなイチ子を中心に話が展開する。「私」はイチ子と九州に逃げるが…