James Setouchi

 

   『 母 』 三浦綾子  角川文庫  

 

*内容紹介

 「あの多喜二(たきじ)が小説書いて殺されるなんて・・・」

 明治初頭13歳で結婚。小樽(おたる)で小さなパン屋を営み、病弱の夫を支え、6人の子を育てた小林多喜二の母セキ。貧しくとも明るかった小林家に暗い影が忍び寄るのは、次男の小説『蟹工船(かにこうせん)』が大きな評判になってからだ。大らかな心で、多喜二の「理想」を見守り、人を信じ、愛し、懸命(けんめい)に生きたセキの、波乱に富んだ生涯(しょうがい)を描(えが)く長編小説。三浦文学の集大成!(文庫カバーから)

 

*著者紹介:三浦綾子(みうらあやこ)1922(大正11)年~1999(平成11)年

 北海道旭川(あさひかわ)市生まれ。旭川市立高女卒。朝日新聞社の懸賞(けんしょう)小説に『氷点』が入選、大ベストセラーになる。人間の原罪(げんざい)などをテーマに、『塩狩峠(しおかりとうげ)』『海嶺(かいれい)』『銃口(じゅうこう)』など多数の著書を遺(のこ)した。(文庫カバーから)

 

*コメント

 この本は、ある人から教えてもらった本だ。読んでみて、大変感動的で、三浦綾子の文学世界『氷点』『塩狩峠』ほかにもつながっていく作品であり、かつ読みやすいので、若い人に薦めるのによいと感じた。

 

 小林多喜二の母親を扱った、伝記小説だ。

 

 小林多喜二(こばやしたきじ)とは、作家。『蟹工船(かにこうせん)』『党生活者』『雪の夜』などの作者。プロレタリア文学運動を代表する作家。警察にとらえられ拷問(ごうもん)によって殺された(1933=昭和8年)ことは、有名である。

 

  三浦綾子は、この小林多喜二の母親に焦点(しょうてん)を当て、伝記的に掘り起こして小説とした。

 

 小林多喜二の母セキは、東北の貧しい田舎(いなか)に生まれた。結婚して、北海道の小樽(おたる)に渡った。貧しい中でも懸命(けんめい)に働き、子どもたちを育てた。多喜二は心が優しく、優秀な子だった。多喜二について、いくつかのエピソードが語られる。

 

 多喜二は高度な勉強をし、『蟹工船』という小説を書いて有名になった。だが、同時に、警察に目をつけられ、尾行されるようになった。ついに多喜二は警察にとらえられ、拷問(ごうもん)を受けて殺される!

 

 その死体と対面した、母の衝撃(しょうげき)はどれほどであっただろうか! 

 

 「ほれっ! 多喜二! もう一度立って見せねか! みんなのために、もう一度立って見せねか!」

 

 しかし、多喜二は死んでしまった。ひどい拷問(ごうもん)で、殺されてしまったのだ。

 

 悲しみの中で母は生きる。

 

 月日は流れ、戦争が終わった。多喜二を慕(したう)う人々が集まってくるようになる。その中でセキは近藤治義(はるよし)牧師と出会う。罪もなく殺されたイエスの姿に、母は、罪もなく殺された多喜二を連想するのだった・・・