James Setouchi

 

『路上のストライカー』マイケル・ウィリアムズ 岩波書店 2013 1700円+税

〝Now is the Time for Running〟 Michael Williams

 

1 内容紹介

・主人公デオは南アフリカのジンバブエの少年。サッカーが好きだ。ある日大統領の兵士を称する兵士が村にやってきて家族を虐殺する。デオは障がいのある兄イノセントと国境まで逃亡し、国境を越え、盗賊と野獣から逃げ、南アフリカ共和国に暮らす難民となる。だが、難民は差別された。低賃金労働者としての暮らし、難民キャンプでの暮らし、ストリートでの暮らし。ある日暴徒に襲われ兄イノセントは虐殺されてしまう。すべてを失ったデオ。しかし、偶然ストリート・サッカーのチームに入り、活躍を始める。おりしもWカップの南アフリカ大会の時である。デオの所属する南アフリカ共和国チームは、難民・出身地を問わず心を一つにして活躍する。

 

→サッカーの話でもあるが、それだけではない。ジンバブエのハイパーインフレ、南アフリカ共和国における貧富の差、難民に対する排斥などなど、極めて困難な社会問題を盛りだくさんに盛り込んだ作品だった。それを乗り越えてデオは生きる。十代向けの作品のはずだが、読み応えのある一冊。

 

2 作者紹介 マイケル・ウィリアムズ

・南アフリカ、ケープタウン生まれ。劇作家、小説家。ケープタウン・オペラの総合監督を務める。大学生の頃からラジオ劇を書き始め、25歳で最初の小説を出版する。アフリカの神話をもとにしたオペラ作品を手掛けるなど、幅広い活動で知られる。『Crocodile Burning』(1994年発表)も高い評価を受けた。(岩波書店の本のカバーの作者紹介から)

 

3 付言

 サッカーのサミュエル・エトー(1981~)はカメルーンの貧しいストリートの出身だが努力して世界有数のストライカーになった。彼は貧しい子供たちのために財団を作りサッカー教室を作った(NHKスペシャル「サミュエル・エトー アフリカを背負う男」)。ブラジルのペレマラドーナも少年時代貧しかったことが知られている。 

 貧しいストリートでも、ボール一つ、たった一人からでもリフティングはできる。二人いればパスができる。神戸の震災後の廃墟で子供たちがサッカーボール一個で活力を取り戻した話は有名だ。本書の主人公・デオも社会のひずみの最下層で生きる中でストリートサッカーに出会って行く。

 

(アフリカ関連)

勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013年現在の政治経済)、中村安希『インパラの朝』(旅行記、アフリカ全般)、マイケル・ウィリアムズ『路上のストライカー』(小説、ジンバブエと南アフリカ)、ナポリ&ネルソン『ワンガリ・マータイさんとケニアの木々』(絵本、ケニア)、曽野綾子『哀歌』(小説、ルワンダ)、宮本正興・松田素二『新書アフリカ史』(歴史)、山崎豊子『沈まぬ太陽』(小説)