James Setouchi

 

V・E・フランクル『それでも人生にイエスと言う』春秋社 1993年

        『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』みすず書房 1956年 

河原理子『フランクル『夜と霧への旅』』平凡社2012年

 

1 V・E・フランクル  Victor Emil Frankl (1905~1977)

 ウィーン生まれ。フロイト、アドラーの影響を受け、精神科医となる。第二次世界大戦下、ナチスによって強制収容所に送られ、妻をはじめ家族の多くを失う。その後精神科医として独自の「ロゴセラピー」を展開、ウィーン・ポリテクニック神経科部長、ウィーン大学教授、合衆国国際大学特別教授などを歴任。(春秋社の上記の本の著者紹介から)

 

2 フランクル『それでも人生にイエスと言う』“…trotzdem Ja zum Leben sagen:Drei Vortrage”

 1946年の三つの講演。1993年に山田邦男・松田美佳が日本語訳して春秋社から出した。講演なので高校生にもわかりやすい。医学部に行く人は必読。悩み苦しむ人、何のために生きているのか分からなくなった人も必読。つまり生きる意味を見失いがちな現代の日本人は全員が読むといいかもしれない。冒頭で「精神病院での集団殺害」に言及している。これはナチス時代の事柄についての言及だが、現代日本でも起こってしまった(2016年夏)ことは記憶に新しい。つまりこの本は現代日本の我々が読むべき本なのだ。(フランクルは第二講演の中で、「不治の精神病患者は生きる価値がない」とするのは誤りだ、と繰り返し論証している。)巻末の山田邦男の解説も有益。

 印象に残った箇所をいくつか記そう。(傍点部分は太字で示した。)

「人間は『楽しみのために生きているのではない』。…しあわせは、けっして目標ではないし、…それは結果にすぎないのです。」「私たちが『生きる意味があるか』と問うのは、はじめから誤っているのです。…人生こそが問いを出し私たちに問いを提起しているからです。」「私たちはさまざまなやりかたで、人生を意味あるものにできます。活動することによって、また愛することによって、そして最後に苦悩することによってです。」「私たち一人ひとりの存在は不完全であるからこそ、唯一のものになる…生きることは、困難になればなるほど、意味あるものになる可能性がある…」

 「(G教授は)人生の最後の数時間でもまだ、まわりの人を『妨げ』ずにいたわろうと気を配っていたのです。…ここにすばらしい行いがあります。」「外面的に不成功に終わったり世の中で失敗したりしても、病気と死から得られる意味が損なわれることはありません。内面的に成功するかどうかこそ問題なのです。」「(ある不治の病とされた患者さんが突然本復した事例を紹介し)ある特定の病気が、いつまで不治だとみなされるかはだれにもわからないのです。」「社会の役に立つということは、人間存在を測ることができる唯一のものさしでは絶対にない…」「(ある重い障がいを持って生まれた子供の母親の手記)私は子供を神さまのように崇め、限りなく愛しました。…娘の小さな手を私の首に回してやって、『お母さんのこと、好き? ちびちゃん』ときくと、娘は私にしっかり抱きついてほほえみ、小さな手で不器用に私の頬をなでるのでした。そんなとき私はしあわせでした。どんなにつらいことがあっても、かぎりなくしあわせだったのです。」「(世界全体に意味があると考えるかないと考えるかについては)ただ自分自身の存在の深みから、その決断を下すことができる…究極の意味、存在の超意味を信じようと決断すると、その創造的な結果があらわれてくる…信じるというのは、…信じることを、真実のことにするのです。…」

 「人間には、自由があります。自分の運命に、自分の環境に自分なりの態度をとるという人間としての自由があるのです。」「時間的なもの、日常的なものは、有限なものが無限なものにたえず出会う場所なのです。」「ほんのささいな決断でも、きわめて大きな決断でも、すべて永遠の意味がある決断なのです。」「人生はそれ自体意味があるわけですから、どんな状況でも人生にイエスと言う意味があります。どんな状況でも人生にイエスと言うことができるのです。」

 

3 フランクル『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』“Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager”

  世界的ベストセラー。ドイツで出た本を霜山徳爾が見出して1956年日本に紹介。そのときは収容所の写真などを多く載せ衝撃を与えた。2002年に池田佳代子が新訳を出した。

 

4 河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』平凡社2012年

 フランクルにつながる人々や日本での読まれ方などを追跡。好著。各種文献も紹介してある。併せて読まれたし。著者は朝日の記者。さすが新聞記者で、よく取材しているし、文章も読みやすい。