James Setouchi

 

ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』

Garcia Marques〝Cien anos de soledad〟

 

1 作者 ガブリエル・ガルシア=マルケス 1927~2014 コロンビアのノーベル賞作家

 ガルシア=マルケスはコロンビア北部のカリブ海に接する地方で生まれた。コロンビアの首都ボゴダは、標高2600メートルの高地にあり格式張った古いスペイン文化が移植された町だが、ガルシア=マルケスが生まれたのは、熱帯の辺境地域で、アフリカ系住民とカリブ系先住民の影響の強いところだ。ガルシア=マルケスはその地方の貧しい家庭に生まれた。彼はコロンビアの主流文化にはなじめず、カリブ海人を自称していた。ボゴダ大学に学ぶが、動乱のため大学は閉鎖、ガルシア=マルケスはジャーナリストとなる。ヨーロッパに渡り、映画の勉強をし、社会主義諸国を歴訪し、メキシコで映画のシナリオを書くなどした。その中で小説も書いた。1967年刊の『百年の孤独』は空前のベストセラーとなり、「コロンビアのセルバンテス」と呼ばれた。『百年の孤独』はひとつの村落の盛衰に託してラテンアメリカ全体の歴史を象徴的に描き出したものと受け止められた。ラテンアメリカではどの国でも、この本の話は自分の国の物語だ、この物語は「リアル」だ、と感じた。ラテンアメリカ以外の世界でも次々と翻訳されて読まれた。代表作は『百年の孤独』の他に『族長の秋』『コレラの時代の愛』『戒厳下チリ潜入記』『迷宮の将軍』など。1982年ノーベル文学賞受賞。(集英社世界文学全集の鼓直による記事、および、NHK「視点・論点」の「ガルシア・マルケスの世界」(2014年5月7日放送、旦敬介による)を参考にした。)

 

2 『百年の孤独』感想 

 ノーベル文学賞という名前で恐れをなすかもしれないが、ドストエフスキーのような深いものではないし、ヘミングウェイのようなハードボイルドなものでもない。むしろ大げさな誇張、荒唐無稽でありえない出来事(人が空中浮遊したり、昇天して消えたり)、大掛かりなホラ話の連続という印象だ。そう、似ているのはセルバンテス『ドン・キホーテ』、あるいは、大江健三郎の後期の小説のあるもの。(もちろん、時代の順に並べると、『ドン・キホーテ』→『百年の孤独』→大江健三郎の後期小説だ。)登場人物たちは大まじめに取り組んでいるのだが、大いに逸脱し大いに滑稽だ。数世代にわたる沢山の登場人物が出てきて、村づくりあり、魔術あり、古文書解読あり、「賢者の石」あり、いかさまもどきの商売あり、内戦あり、鉄道敷設あり、プランテーション建設あり、ストライキあり、虐殺あり、恋愛あり、三角関係あり、隠遁生活あり、悲しい結末もあり、のエピソードの洪水。何とも言えない悲喜劇だが、なにがしかの感慨があり、人生とはこういうものかもしれないなと不思議な気持ちになる。決してハッピーエンドではない。問題は解決していない。しかし「癒し」効果のようなものもあるかもしれない。この作品は欧米的な「中心」ではなくカリブ海という「周縁」の物語を紡ぎ世界の人々に受け入れられた。従来の欧米的な小説のスタンダードから逸脱するスタイルで、後の作家たちに強い影響を与えた。ノーベル文学賞に値する作品でやはりあったのだ。

 

主な登場人物(読むためのてびき。似た名前が多いのでメモを取りながら読むとよい。)(ネタバレあり)

(1)ホセ・アルカディオ・ブエンティア:この村を建設した人物。晩年は木に縛り付けられて暮らす。

(2)ウルスラ:その妻。長命。懸命に子孫の世話をする。

(3)メルキアデス:謎のジプシー。不思議な機械や古文書を村に持ち込む。

(4)ホセ・アルカディオ:(1)(2)の長男。世界を放浪したのち村に帰り活躍。謎の死を遂げる。

(5)レベーカ:その妻。隠棲する。

(6)アウレリャノ・ブエンディア大佐:(1)(2)の次男。革命軍を率いて各地を転戦。最後は隠遁者となる。

(7)アラマンタ:(1)(2)の娘。生涯独身。多くの男に求愛されるが…

(8)ピラル・テルネラ:トランプ占いの女。(1)(2)双方と交わり子を生み次の世代の祖となる。長命。

(9)サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダ:ピラル・テルネラが連れてきた女。子を生みこの家に尽くす。

(10)レメディオス(小町娘):(9)ピラル・テルネラの娘。美女。昇天して消える。

(11)ホセ・アルカディオ・セグンド:(10)の弟。組合を作り大虐殺の証言者となる。

(12)アウレリャノ・セグンド:(11)の双子。大食漢。あやしげなくじ引きで稼ぐ。

(13)ペトラ・コテス:(12)の情婦。なぜか家畜を殖やす才能がある。

(14)フェルナンダ:(12)の妻。王女たるべくして育てられた。

(15)アマランタ・ウルスラ:(14)の娘。ベルギーに留学する。

(16)アウレリャノ・バビロニア:(15)のおい。私生児として育てられる。古文書をついに解読するが…

(17)その他、保守党の政治家たち、鉄道を引きバナナ園を作る人びと、軍人たちなどなど多数。