James Setouchi

 

ボルヘス『アレフ』(短編集、岩波文庫)鼓 直・訳

             Jorge Luis Borges “EL ALEPH”

 

1 ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899~1986)

 アルゼンチンの作家。ブエノスアイレス生れ、ヨーロッパで教育を受ける。多年図書館に勤務。ラテンアメリカ文学を代表する作家の一人。代表作:詩集『ブエノスアイレスの熱狂』、物語集『汚辱の世界史』、短編集『伝奇集』(1944)、『アレフ』(1949)、『砂の本』(1975)など。

 

2 『アレフ』(『エル・アレフ』とも)(ややネタバレ気味のものもあります)

 短編集。幻想か現実かわからない、古今東西の話題が出てくる。展開される議論は難解な者も多い。ラテンアメリカの風土とそこでの人生を思わせる。まず1949年に刊行され、いくつかの短編を組み込み1952年に第二版が出た。これが岩波文庫版の訳のもと本となっている。

 

(1)『不死の人』:ローマの軍人「わたし」は不死の人びとの住むという都と不死を授けるという川を見たいという熱望に取り憑かれ、沙漠をさまよう。やがて「わたし」が辿り着いた先は・・(やや難解)

(2)『死人』:南米の若きギャングの話。

(3)『神学者たち』:キリスト教初期の神学論争と異端の排除を扱う。

(4)『戦士と囚われの女の物語』:ロンゴバルド族の戦士・ドゥロクロフトはラヴェンナの戦いで自軍を捨て都市を守る側に回る。「私」ボルヘスの祖母は、イギリス出身だが南米に流れ着いてインディオの仲間になった金髪の女について語る。両者の物語は、同じ一つの物語なのだろう。

(5)『タデオ・イシドロ・クルスの生涯(1829~1874)』:タデオ・イシドロは、遊撃隊員だったが、変遷を経て、地方警官となる。が、脱走兵を追う途中で変心し、脱走兵とともに警官隊と戦い始める。

(6)『エンマ・ツンツ』:19歳のエンマは父の復讐をする。

(7)『アステリオーンの家』:「わたし」は王妃の息子。迷宮に囚われている。「わたし」を解放してくれる者は誰か・・古代神話に材を取る。

(8)『もう一つの死』:ドン・ペドロ・ダミアンは二人いたのか? 

(9)『ドイツ鎮魂曲』:ナチスの党員の銃殺される前夜の独白。

(10)『アヴェロエスの探求』:スペイン、コルドバ。アリストテレス研究者であるアヴェロエスはコーラン学者ファラク、旅行家アブルカシム、詩人アブダリマリクらと語る・・

(11)『ザーヒル』:「私」(ボルヘス)はザーヒルというありふれた硬貨を手にするが・・

(12)『神の書跡』:マヤの神官である「私」、ツィナカーンは、スペイン人により囚われの身となり・・

(13)『アベンハカン・エル・ボハリー』:舞台はイギリス。アベンハカンがいとこのサイードの手にかかり殺された事件は・・ホームズの推理小説のような展開。

(14)『二人の王と二つの迷宮』:略。

(15)『待ち受け』:現代のギャングの話。

(16)『門口の男』:インド、パンジャブが舞台。イギリス政府が派遣した威圧的な行政官・グレンケアンが、何物かによって殺害される・・

(17)『アレフ』:「私」ボルヘスは、カルロス・アルヘンヘンティノ・ダネーリの家の地下室で<アレフ>なる存在を目撃する。その存在は・・・!

 

3 コメント

 上記の如く、舞台は現代の中南米から古今東西ににわたる。生半可な世界史の知識では理解できない情報量だ。ラスト2行で逆転を仕掛ける話もある。不可思議な形而上学を語っている話ものもある。やや難解だが、迷宮のような世界に入るとはまるかもしれない。         

(中南米の文学)

 カブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』『族長の秋』、バルガス=リョサ『緑の家』『ラ・カテドラルでの対話』『密林の語り部』、カルペンティエル『失われた足跡』、ファン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』『燃える平原』、フェンテス『アルテミオ・クルスの死』、コエーリョ『星の巡礼』、コルタサル『追い求める男』、ボルヘス『アレフ』など。