燗銅壺とは、江戸時代の初期にはあったそうで、記録に残る最も古いものは、あの伊達政宗の家臣、支倉常長がローマへ派遣された際(1613年・石巻出発)の持ち物として、イタリアに詳細なスケッチが残されています。

ローマ人が実際に手に持って描いたという絵には機能の説明も入っていて、これは間違いなく燗銅壺です。さすが伊達政宗の家臣、道具が粋です。当時は「茶弁当」「野風呂」「野燗呂」「手提げ銅壺」など、名前は統一されてなかったようです。

ローマへ向かう帆船の上で、夜空を眺めながら燗酒を一杯やっていたとは、戦国武将の風流はスケールが違います。江戸の初期にはあったということは、起源は戦国時代にさかのぼれるわけで、ますます興味が募ります。これからまた新たな記録が出てくることを期待したいですね。

 

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そこで燗銅壺が欲しくなり、骨董屋さんやヤフオクで探してみたところ、幸運なことに続々と手に入りまして、気がつけば5台に増えました。燗銅壺にはいろんなタイプがあって、それぞれに個性が違うんですよね。1つ入手できると、他のタイプも試してみたくなってきます。

 

それを順に紹介します

★★★★★★★★★★★★★★★ 

 

① 命名「翔鶴」 江戸後期 (所沢の旧家より出たもの) 材質 真鍮

縦110mm 横135mm 幅73mm 重量480g 

規定水量(お銚子を1本入れた際の水量) 450cc 炭量(廉価の炭) 50g

燃焼筒 円形 直径48mm  最初の炭で熱燗が1時間楽しめます

 

特徴: 

非常に小型軽量 水量が少ないので速攻でお燗が可能。燃焼筒の径が小型なので、炭火の熱の利用は限定的 手あぶり又は缶詰を温めたり、イカを炙るような使い方に適している。 専用の桐箱に収納。

木箱の保温性が良いので冬のキャンプに便利。ちなみに、小型の焼き網を自作する場合には、100円ショップのは質が良くないので、ホームセンターで買うことをオススメします。価格はいくらも変わらないのですが金属の剛性が違います。早い話、100円ショップの金網に使われている金属は、曲げると折れるので加工に向いてません。

 

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サイズは文庫本サイズ 専用の桐箱に収納されている状態で、このサイズ。本体はさらに小さい

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野外で使用中

このときは、2台の燗銅壺を持参。焚火で炭を熾して燗銅壺に使用 一度炭を入れると何時間も温かいので、そこを賞賛される ちなみに一度の炭火投入で湯煎できる時間は、使用する野外の温度による 

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花見で使用中

見知らぬ花見客の注目を大いに集める

「なんですかこれ?」

「かくかくしかじか」

「ええええ!マジですか~~~!」

「まじです」
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★★★★★★★★★★★★★★★ ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

② 命名「瑞鶴」 江戸中期 (青梅の旧家より出たもの) 材質 銅

縦107mm 横180mm 幅105mm 重量540g 

規定水量(お銚子を1本入れた際の水量) 900cc 炭量(廉価の炭) 70g

燃焼筒 円形 直径80mm  最初の炭で2時間は熱い

 

特徴:

優雅な小判型の形状で対流を促進し、湯温上昇の効率を高めている。比較的大きめな燃焼筒を有し、酒の肴の炭火焼が可能
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炭火を入れたところ 連続湯煎時間を延ばすには、炭の形と大きさ、そして「並べ方」が重要になります。大きめな炭をドライバーなどで薄く割り、空気が通るように配置すると火力が上がります。薪ストーブと同じ

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上から見るとこれくらいのサイズ 右のチロリはホームセンターで売ってるアルミ製。急いでお燗をしたいときには、陶器のお銚子よりは、薄いアルミ製が早くお燗できます

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小型の焼き網を自作して採れたてのアスパラを焼いてみる 塩でいただきました。右のチロリは錫製 アンティークショップで売ってました 100円 このフタ付きの錫チロリが野外では大いに役立ちます 焚火の灰とか飛んでますからね

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江戸時代の関東の銅はほぼすべて足尾産の銅である。そこで、銅の里帰りを兼ねて植林ボランティアに参加してみた。いまはもう廃墟となった工場群の入口で燗銅壺を掲げて一礼する。「みなさんの掘った銅です。ここにお持ちしました」
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かつて銅山の鉱夫たちが飲んだという酒「福榮」を買ってきた。これを燗銅壺でお燗して、最初の一杯を足尾の山々へ捧げる 今夜はここで一泊

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一夜明けて植林ボランティアに参加 最も高い「400段のルートへ挑む」

 

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「ワイルドスピリッツの森」より掘ってきた20本の苗木をこの斜面に植える

大きく育つことを祈る 足尾の定着率は4割だそうで、20本植えたら8本は大木へ育ってくれることだろう。自分で植えた木が何百年もここで山を護るなら、植えた甲斐がある。 この成果は未来の日本人が確認してくれる 

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これは奥多摩の風流ツーリングキャンプの写真。小澤酒造が当時の古文書をもとに再現したという元禄酒を買ってきた。元禄時代の燗銅壺と酒、しかもこの燗銅壺は青梅の旧家より出た品で、当時も同じ酒をお燗していた可能性が高い。尚、小澤酒造の創業は、赤穂浪士討ち入りの年。この組み合わせで春を愛でるとは、われながら風流

風呂敷はリサイクルショップで発見したもの。100円だった

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渓谷の音を聞きながら燗酒を味わうひととき。水はもちろん渓流の水を使ってお燗 渓流の小石を拾ってハシ置きとする

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★★★★★★★★★★★★★★★ ★★★★★★

 

③ 命名「飛龍」 明治 (兵庫の骨董屋さんより) 材質 銅

縦115mm 横225mm 幅145mm 重量1290g 

規定水量(お銚子を1本入れた際の水量) 1600cc 炭量(廉価の炭) 120~170g

燃焼筒 円形 直径100mm 

 

特徴: 

優雅な小判型の燗銅壺でサイズは中型の中でも大きい方。燃焼筒の径は100mmもあるので本格派の炭火焼が可能 そのぶん、火力の調整が必要。使う炭の量も多く、火力の管理を怠ると熱が暴走して、湯煎の温度が上がりすぎてしまうことがある。自宅で使うには便利な大きさである お銚子2本の同時お燗が可能。現在、自宅で使う回数が最も多いのがこれ。 キャンプに持っていく回数が多いのは一回り小型の瑞鶴。

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素朴な萩焼の馬上盃と熱燗 肴はシシャモ  シシャモが焼けるサイズは飛龍だけ。灰取り皿と吸気の調整を兼ねたアイデア品の金具がセットになっている。

ハシの先端を穴に入れてプレートを持ち上げると、吸気量を3分の1まで低減できる。花型に穴の開いた金具を回転式2枚重ねの吸気口のほうが、吸気量の調整はやりやすいけど、こちらは吸気量そのものが大きいので、一気に火力を上げる効果あり。そのぶん、目標とする火力と湯温に達したあとの調整が必要。 
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ロストルの模様が凝っている 花模様になってます。下からの吸気を十分に確保しながら、燃えた灰は下に落とす仕組みである

↓左が灰取り皿兼、吸気調整金具 段差の部分に創意工夫が現れている ハシの先端で持ち上げる工夫もまた凝っている シンプルで確実な吸気調整システムである。L字の吸気と排気側へ内径を拡大しながら周囲を断熱材(この場合は水)で囲って人工的な上昇気流をつくって燃焼を促進する、という設計はまさに現代の「ロケットストーブ」の原理と同じである。 おそるべし、江戸時代の技術力。 世界に誇れる日本の酒文化である。

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★★★★★★★★★★★★★★★ ★★★★★★
④ 命名「蒼龍」 明治前期 (京都の旧家より) 材質 銅

縦130mm 横330mm 幅143mm 重量3300g 

規定水量(お銚子を1本入れた際の水量) 2160cc+1800cc 炭量(廉価の炭) 120g~150g

燃焼筒 角形 78mm×88mm 

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独立した2つの湯煎室を左右に配置し、同時に2本のお銚子(それも2合用)のお燗が可能。湯煎室を左右に離して配置した設計は、燃焼筒の熱配分を7:3に分けることにより、熱燗とぬる燗を同時に楽しむ工夫である。あるいは、左で急速お燗、右で保温という使い方を可能としている。まったくもって恐るべき先人の知恵。

小さめの燃焼筒ではあるが、裏と表に2ケ所の吸気口を持っており、火力は強く、肴の調理も十分イケる。 使用されている銅板の厚みも十分にあって、ズシリと重い燗銅壺だ。

明治期の燗銅壺は、1枚の銅板を叩いて鍋状に成形することにより、部品点数を減らし、底板のロウ付けも無くしている。これにより底板のロウ付け部分からの漏水の可能性を低減した。私の所有する2台の同時期の燗銅壺(蒼龍と飛龍)は同じ作りである。

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この日は左右別の銘柄の日本酒を温めてみた。

 

左右で温度差の違うお燗を楽しむアイデアには驚いた。普通なら、片側に大きめの燃焼筒を配置して、お銚子を2本並べてお燗すれば良いわけで、それをここまで距離を離し、内部の熱配分を不均等にしてお燗温度を変えるなんて、なかなか思いつかない。

吸気口は花模様の2枚の銅板で作られており、これを回転させることにより、吸気量を調整できる 野外でこれを使うと、この吸気口から炭火の灯りが漏れるので、花が咲いているように見える。こんなところまで江戸時代の職人は凝っている。左隅にある、フタの付いた小さな突起は排水用で、水の量を調整するときは傾けてここから排水する。また、倒した取っ手、排水口、湯煎室のフタ、すべてがツライチになって箱に収まるように設計されていた

 

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★★★★★★★★★★★★★★★

⑤ 超小型燗銅壺「加賀」
水量350cc
重量450g
高さ10.5cm
横13cm
幅7cm
炭量30g
火壺径4.5cm

 この手の小型燗銅壺は、男性から女性への贈り物だったような気がする。男性が使うには小さすぎるのである。また、これを持って桜の下を歩くなんて、江戸っ子にはキザすぎたことだろう。さらに注目すべきは、小型燗銅壺には、牡丹の花や鶴などの、洒落た「筋彫り」が施されているという共通点もある。
この洒落た燗銅壺で女性が一杯やっていたらシビれますね。 炭火を熾さず、ヤカンで沸かした熱湯を注いで速攻燗酒の味わい方にも最適。 小型なので、少ないお湯でもお燗できちゃうし、本栖湖で拾い集めた小型の溶岩などをコンロで真っ赤に焼いて、炭の代わりに火壺に入れてもOKです。これを贈った相手は奥さんじゃあないな(笑)
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加賀と瑞鶴と並べてホームパーティー。酒は4合650円の純米酒 安くて燗上がりする酒 こういう酒は紙パックで作ってくださいメーカーさん。 キャンプに持っていきますから
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★★★★★★ ★★★★★★★★★★★★ ★★★

★★ 野外編 ★★

瑞鶴と花見。炭火と水を入れた燗銅壺を手に提げて近所の桜の木に下まで歩いて行って軽く一杯やってきた。燗銅壺には「手提げ銅壺」「妾銅壺」という別名もあります。    

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風流ツーリングの1枚 テントの前で

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元禄酒と瑞鶴  小澤酒造の「元禄酒」は、創業時の古文書をもとに再現された純米酒。精米歩合90%は、現在の食米と変わらぬ磨き方にて、味が濃い。 小澤酒造の創業年は、忠臣蔵の年。 この酒は昔の侍たちも呑んだ酒だ  お燗に最適。好みの温度は46℃
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翔鶴と蒼龍 キャンプ用の岡持ちに収納 このまま車に積んで出発、今夜は「野外居酒屋」です。岡持ちの名前はとりおと。なんと風流な。 墨痕鮮やかにフリーハンドで一発書きされた見事な文字 内部はシステマチックな2重底構造
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一杯の酒を呑むために、ここまで道具に凝った民族が他にあるのでしょうか。

近頃は、日本人のやることを「ガラパゴス」とか呼んだりしてますが、ガラパゴス、大いに結構ではありませんか。あらゆる分野で徹底的に創意工夫するのが日本人です。真似できるものならやってみなさいと言ってあげたい気分です。

精巧にして頑丈、おまけに、風流を極めようとするこの一途な姿勢。最も古い燗銅壺は江戸中期の作ですから、200年以上たってます。それでも当時と変わらぬ性能を発揮します。

 本来なら戦時中に「金属類供出令」で、弾丸の材料にされちゃうところを、免れた(隠し通したとも言う)貴重な酒器です。持ち主は、戦争が終わったら一杯やろうと思っていたのでしょう。しかし負けちゃったから、野外でこれを使って一杯やるわけにはいかなかったのでしょうね。そして時が流れ、いつしか使い方も忘れられて。。そろそろいいでしょう!この酒器は平和の象徴です。あの時代に鉄砲の弾にされることを拒否したなんて、ぶっ飛んでますよ。

さて、次回の燗銅壺の活躍は秋ですね。紅葉を見ながら風流キャンプに行ってみましょう!