堂場瞬一 「ダブル・トライ」(講談社文庫)
東京オリンピックに新たなニューヒーローが誕生しつつあった
七人制ラグビーの男子代表でキャプテンの神崎真守が、陸上の日本選手権で円盤投げにエントリーし、日本記録にあと僅かと言う驚異の記録を叩きだしたのだッ
ラグビーと円盤投げと言う、全く違う競技での「二刀流」にマスコミ・オリンピック委員会・陸上とラグビーの両連盟・ファン・そして用具メーカーが色めき立ち沸騰した
新興スポーツ用品メーカーの営業マンで元ラガーの岩谷は、神崎と契約を結ぶ為に接近を試みるが、彼は頑としてソレらの要求を跳ねのけてしまう
その後、様々な欲求や提言・望外なオファーが殺到するも、彼の頑なな態度は変わらない
あくまでアマチュアの立場から、真摯に二刀流を成し遂げようとするのだが・・・
オリンピックを間近に控え、沸き立つ社会から描くスポーツエンターテインメント
スポーツモノも堂場にとって、メインのジャンルの1つで、圧倒的に多いのは野球なのだが、今回のラグビーものも数点書いているし、また陸上モノだと駅伝やマラソンなどの長距離モノであったり、後は水泳モノも描いている
が、私はソレらの競技にソレ程感心を抱いておらず、ほぼスルーしている
というか、堂場はご存知の通り、余りにも作品数が多いため、ソレらもフォローしていると「モタナイ」んですよ なので意図的に外してるんですネ
でも今作は、ラグビーという、決してメジャーではない・W杯で「の代表」の活躍する度に話題にはなるし熱狂されるが、ど~しても抜けないアマチュアリズム・稚拙で拙い連盟のリーグ運営などにより、も1つのトコで頭打ちになっている
ソレで以って更に七人制と言う、オリンピック種目でありながら、更に輪をかけた様なマイナー競技を扱った上に、陸上競技の中でも更に地味で目立たない・海外勢に対しても全く歯が立たない・対抗できない・前回の東京オリンピック以来、出場すらできていない円盤投げ・という競技との「二刀流」というテーマに興味を惹かれて購入した
と、まぁ~酷い言い草なのだが、事実であって、モチロン真剣に打ち込んでいるアスリートはいるのだが、ソレにしても・・・というトコがあり、その辺りに目を付けた視点が面白かったし、スポーツものは大得意な堂場なので、非常にスリリングな展開で盛り上げてくれる
今作はハッキリと明言されてはいないものの、「Tokyo 2020関連3部作」の1つとして書かれており、ソレらは以前にUpした「空の声」・「ホーム」との繋がりになっている
基本的な視点は、用具メーカーの営業マンで書かれているが、交互に主人公である神崎の目線にも変わり、それぞれの心境と思考がそれぞれの立場から『Two Way』で書かれているのだが、やはり営業マンで元ラガーマンの岩谷の心持が面白い
時は流れ、今はパリに視線が注がれているが、も1度アノ時期を振り返るのもだ
「ターンオーバー」(ハルキ文庫)
夏の甲子園神奈川予選・灼熱の中でピッチャーの異変を感じ取ったベテラン記者の新見は、過去の自分と姿が重なり・・・「連投」
QBの矢嶋からWRの徳田への完璧なパスが通り、タッチダウンと思った瞬間、相手にインターセプトされてしまい、二人は自信喪失する・・・「インターセプト」
前シーズンに痛めた肩が完治しないやり投げの織田は、一向に上向かない記録・迫りくる若手の台頭に焦りを生じる・・・「失投」
箱根駅伝から僅ヵ1か月後に初のフルマラソンに挑む大学4年生の穴川は、尊敬する先輩の後を追い快走するが・・・「ペースダウン」
大学1年の時に代表入りしたコトもあるラグビーの五十嵐だが、春のリーグ戦で3年連続で怪我に見舞われており、そして4年目の春が・・・「クラッシャー」
最下位に低迷する横浜パイレーツだが、最終戦に勝てば4位に浮上できるが、先発は若手の大洞か、それともベテランの黒澤か・・・「右と左」
スポーツのスリリングな一瞬の攻防のモーメントを鋭く捉えた短編集
いつもの様に・・・単行本は’14で文庫化は’16の作品で、タイトル通り、攻守攻防が入れ替わる瞬間を描いた作品集で、当然全てがスポーツもので6つの競技(野球が2つだが高校野球とNPBとの違いアリ)が描かれている
ソノ中でも野球とマラソンは人気があるメジャーと言ってもイイ競技だが、アメフトは日本ではアレだしラグビーも同様で、やり投げに至っては・・・
と、かなりマイナーな種目についても描かれており、その様な状況下でひたすらに・真摯に挑む若者の外連味のない姿勢と、故に起きる一瞬の出来事を鋭く際どく抉り取っているのが面白い
↑で書いた様にスポーツものは得意な堂場ならではの作品なのだが、実は堂場の短編集はとても珍しい
基本、堂場は長編の人で連作短編と言う形式も少ない
そんな中では実は貴重な作品となっている
今回は「ラグビー・投擲」が被っているコチラを関連としてUpした