東川篤哉 「野球が好きすぎて」(実業之日本社文庫)

 

警視庁捜査1課の刑事・神宮寺つばめと、父親の勝男は親娘でコンビとなって事件を追っているが、スワローズファンとしてなせる業なのか何故か野球絡みの事件の担当となってしまう絶望

真っ赤なCマークCapを被り、新井の「#28ユニ・サイン入り」を着て殺された男・慎之助の2000本安打のツィートを最後に息絶えた人気アナ・阪神戦をTVで観ながら刺殺されてしまった虎キチの中年男性・Bsのパットンさながらに冷蔵庫で殺されてしまったサラリーマン・リビングでバットで撲殺された人気タレント

そして、「親娘燕コンビ」が困った時、スポーツバー「ホームラン・バー」の片隅に佇む、スラィリーの背番号『!』を背負ったユニのカープ女子・「神津テル子」(’16)いや、「田中菊マル子」(’17~8)えっと・・・「連覇タエ子」(’19)そして遂に「暗黒トキ代」(’20)が、鮮やかに謎を解くッキラキラ

実際のゲームに合わせて描く、NPBミステリがプレイボール野球

 

 

S50の初優勝を目の当たりにした時から、今に至るまで一途にカープを愛する生粋のファンである東川が、実際にプロ野球界で起きた事件を下敷きにして描いた、ナンともユーモラスな野球ミステリの連作短編

先ず主人公がコレらの中で唯一まともなのが(ラブ)神宮寺つばめ・という捜査1課の刑事なのだが、父親が同じ捜査1課の刑事でコンビを組んでいるのだが・・・苗字が神宮で名前が勝男なら、そらも~熱狂的な燕党と決まっている(表紙の勝男のイラストがナンとも可愛らしいルンルン

が、つばめだけはそんなに野球が好きな訳ではなく、野球ニュース全般には疎いというのがナンともオカシク、というかソレが普通なのだが、コノ世界に入り込んでしまうとつばめがオカシク見えてくるのが面白い

そして、颯爽と登場し安楽椅子探偵もどきで謎を軽快に解く、スラィリー#を背負ったカープ女子のキャラもまたE~びっくりマーク

ほぼ毎年、名乗る名前が変わるのもご愛敬で、ソノ辺りの野球ファンならほくそ笑まざるをえないウシシ

コレをシリーズとなっており、今も「年1」で連載されているとか

だとすると、まだ単行本&文庫にするには時間が足りないのが残念

また初の試みとして「あとがき」を書いているのも珍しい

’21には貧打に喘ぎ4位に転落した日と、文庫化の際の’24には4試合連続完封負けをした日に記しているのがナンとも爆笑

 

 

永井良知・橋爪紳也「南海ホークスがあったころ 野球ファンとパ・リーグの文化史」(河出文庫)

球団創設・大阪球場誕生・打倒巨人の日々・鶴岡親分の涙と歓喜の御堂筋パレード・停滞低迷する実力と人気・そして南海の撤退と福岡への移転・・・

波乱万丈の歴史を彩った南海ホークス音譜

ソノ栄光の歴史と挫折と苦難の日々を追いつつ、スタジアムと言う空間の在り方や応援と言う行動原理学を交えつつ、ファンの視点から描くプロ野球近代史スター

 

関西大学の教授である永井と、大阪府立大の教授である橋爪と言う、二人の熱狂的なホークスファンの視点から、本職である都市社会学や建築学の観点をも交えて語る、熱いプロ野球史で、作中には多くの貴重な写真が挿入されており、野球ファンとしては嬉しい限りチョキ

ファン目線での応援記的な本は数多くあるが、学者が真面目に自分の学問を礎にして描いている点が異色流れ星

だけど、根底には滾るホークス愛が溢れており、そこかしこに散見されるので、堅苦しくならずに面白く楽しく学べるのが拍手

ホークスと言えば、閑古鳥が鳴き、関西圏のオヤジの痛烈なヤジが飛び、選手と観客の「掛け合い漫才」が試合と共に楽しめるという、稀有なチームであり球場であった笑

*尤も、ソレは藤井寺や日生でも同様という 西宮だけはチョッとだけお上品だったウインク

昭和30年は西鉄ライオンズと共にリーグを牽引し、東のGとの死闘を繰り広げていたが、球団経営の悪化からチームは衰退の一途をたどり、遂には球団売却の憂き目にあうのだが・・・大泣きソノ辺りの顛末も含めて、改めてファン目線での記録は貴重で面白くもある1冊

単行本は’03に紀伊国屋書店から刊行され、’10に文庫化されている