明治と大正初期生まれの利用者さんは、我慢強い人が多かった。
喘息でヒューヒュー言いながら肩呼吸をしていても、「全然、苦しくないよ~。」とニッコリ笑ったり、高熱を出していても、「大丈夫よ。」と言って、決して弱音を吐いたりしなかった。
苦しかったら我慢しないで言ってね、と言っても「うん。」と笑って頷くだけで、自分からは何も訴えたりはしない。
その姿を見て、根性無しで直ぐに弱音を吐いてしまう自分自身を情けなく思い、日々反省をしていた。
そんな人達がいる一方で、ワガママ言い放題のばあちゃんもいた。
ヤキモチ妬きで、自分を一番に構ってもらえないと、気が狂ったかのようにナースコールを押し続け、終いには泣く。
他の職員は、そういう人をよく気に掛けていたが、何も言わない大人しい人の事は、少しおろそかにしていたようにも思える。
こんな言い方は良くないのかもしれないけれど、泣いたり、怒ったり、不満を人にぶつけられる人は少し位放っておいたって構わないと思う。発散出来ていれば、少しはストレスも解消されているのだから。
もっと注意をすべき所は、何も不満を口にしない人の心の中なのに、そこを無視されている感じがして私は非常に悲しく感じていた。
ある日、「この間インフルエンザの予防接種をしたから。」と言って、入浴を拒否した入所者さんがいた。
その人は誰とも話もせず、自分の内にこもってしまう人で、自分の髪の毛をよく抜いてしまう癖のある人だった。
誰がなんと言っても入浴をしようとはせず、二週間以上はその状態が続いていた。
どうしたら良いのだろうか、と無い頭でずっと考えていたが、私には結局どうすることも出来なかった。
そんな時に救世主が現れた。私が第二の母と慕っていた人が、その人をお風呂場まで連れて来てくれたのだ。私は嬉しくて泣きそうになった。
やっぱり、利用者さんはちゃんと分かっているのだ。自分の事をちゃんと見ていてくれる人かどうか。
お風呂に入らないと言って、小さな抵抗をして、やっと入浴してくれて…他の人には大した事はないように思える事なのかもしれないが、私の中では物凄く大きな出来事だった。
「あぁ、良かった。」のたった一言で終わらせられない。
第二の母に、「やっぱり、○○さんはスゴイよ!」と言ったら、「大したことないわよ。」と言われた。
さらりとこなして見せてくれる、母はやっぱりスゴイのだ。仕事中に嬉しくて泣きそうになったのは、後にも先にもあれが最初で最後だった。