今月のお題「『葡萄酒いろのミストラル』ここを見て!」 | 谷口礼子オフィシャルブログ「じゃこのおもしろいこと」
今月も、9日がやってきました。
そして、過ぎました!
!!!
すみません!

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毎月、決められたお題(テーマ)について、キューブリックメンバー全員が個人ブログでアツ~く語る、恒例お題ブログコーナー!!

今月のお題は、「『葡萄酒いろのミストラル』ここを見て!」。
公演直前。稽古に作業に大忙しのメンバーそれぞれが、特別なこだわりを作品どこかに紛れ込ませようと懸命です。その内側をすこし覗けば、『葡萄酒いろのミストラル』をひと味もふた味も楽しめるはず!

さあ、今すぐメンバーの個人ブログをチェック!! (5月9日更新分)
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ということで、きゅ~め~るをつくりました。
公演直前号です。
でも、まだまだ、まだまだ、公演まで、突き詰めねばならないことがありすぎて、ぶるぶるします。

「葡萄酒いろのミストラル」ここを見て!

昼間、千田さんから熱いメールが届きました。
ミストラルの出演者宛のメーリングリストに、千田さんの思いをつづったメールが。

この作品にかける想いを、文章にして、送ってくれました。
わたしは、なんだかそれを読んで、泣きそうになりました。

なんでかな。

10年前の初演から、出演している千田さんが、いま、稽古場で一番若々しいといわれています。
いろいろ考えてみたんだけど、私たちに必要なのは、声の大きさでもダンスのうまさでも動きの切れでもギャグの面白さでもなくて(いや、それも必要なんだけど)、
人とかかわりたいという思い なんじゃないかと思ったのです。

千田さんはとてもそれが強い人で、そのためにお芝居をしてるんじゃないかと思われる人です。
そこが、今お芝居をしている時にとてもいい方向に見えてきます。

『葡萄酒いろのミストラル』は、昭和23年が舞台。
戦争が終わってまだ3年。
たくさんの人が、今の私たちよりも、強く生々しい記憶を持って生きている時代です。
携帯も、テレビもない。
いちどお別れしたら、下手したら手紙しかない。
写真だってすぐに写せない。
覚えておくしかない。

だから、出会った人のことを覚えておきたい。
何を話したか、覚えておきたい。
人とかかわるということが、今の時代、どうして希薄になってしまったのか、ということが、逆にくっきり見えてきます。

それで思い出したことがあって・・・。

私が通っていた高校は、戦前から続く女学校だったので、戦中に女学生だった方が、ずっと同窓会の長をやっていらして、その方が引退するときに書かれた記事が、学校から届いた会報に載っていました。
その会報を読んで、わたしは、はっとして、ちょっと泣いてしまったのです。

戦争中に学生だったその人は、「また明日」という言葉を使えなかったのだそうです。
また明日会えるという確証はどこにもないから。
だから、「さよなら」と別れて、また次の日、会えることにほっとして、
そういう学生時代だった、とそこにはありました。

私は、実は、「さようなら」という言葉について、こどもの時から、とても不思議に思っていたのです。
「さようなら」というのは、いったいいつ使う言葉なんだろう。
小学校の終わりの会で、決まり文句として言う「せんせい、みなさん、さようなら」しか、私の記憶にはありません。
もしくは、捨て台詞?
「もう私、やめさせていただきます。二度とお会いしません、さようなら」。

・・・まあ、それはちょっと考えすぎで、「左様ならば」、「さようなら」、「それじゃ」、「じゃーね」というのは同じ展開ですし、「じゃーね」であればいつも使っている、のですけれども、ね。

でも、「さようなら」という、「日本人が別れの際に言う言葉」は、もうすごく廃れていて、それがなぜなのかというと、この、携帯やテレビやネットが発達した現代、ほんとうに「さようなら」というべきシチュエーションというのが、どんどんなくなっていっているからなのではないか、と私は思うのです。

待ち合わせだって簡単。
メール添付も簡単。

ほんとうに「さようなら」ということができるのは、もう、死ぬ時しかないのかもしれない。
そんな私たちに、ふりかかってきた、たくさんの「さよなら」が、昨年の大地震でもありました。


こんな時代に生きて、お芝居なんてやっている私たち、一番「さよなら」に遠そうに見えますか?
見えるかもしれません。


でも、私は今、この「さよなら」を伝えたい。
お芝居は、いましかない。
今回なら、5日間、8回しかないステージが、全部さよならなんです。
お芝居が終わったら、セットもなくなります。座組も解散します。
もしかしたらもう二度と一緒の舞台に立てないかもしれません。
実は、私たちは、さよならの中で生きていて、
それが、今回の『葡萄酒いろのミストラル』ともマッチしていて、
それでもお芝居をしている私たちは、結局は、人と関わることに何か渇きを感じているはずなのです。
そこすら、『葡萄酒いろのミストラル』という作品と、通ずるものがあるはずなんです。

私がお伝えできる「ここを見て」は、それです。
そして、見ていただく皆さんにも、『葡萄酒いろのミストラル』の一瞬一瞬、ひとつひとつのできごとに、どんどん忘れられないさよならを重ねていってほしいと思います。
そうやって、作品を見終わった後、もしお隣に座っているお友達や、もしくは知らない誰かさんのことを、「今日会えてよかったな」と思って劇場を去っていただけたら、ほんとにほんとうに、私はこんなにうれしいことはありません。

毎日の混雑した電車や、道ですれ違う知らない人にだって、もしかしたら本当にそれが最後の出会いかもしれない瞬間が星の数ほどあるのです、
けれども、どうしても自分以外の人が、その他大勢になってしまう時代です。
でも、私は、その他大勢のなかから、できるだけたくさんの、血の通った人間の存在を、見つけ出せるようになりたいのです。

みんなが、そうやって、自分以外の人の群れの中に、出会いや別れや人生を、今より強く生々しく感じることができれば、もっと毎日はすてきなんじゃないかと、強く思っているからです。


この『葡萄酒いろのミストラル』が、みなさんにとって、そのひとつのきっかけになることが、私の夢です。


もっと、見たことのない明日へ!
がんばります。