ことしのこと。 | 谷口礼子オフィシャルブログ「じゃこのおもしろいこと」
おおそうじをしました。
おおそうじするほどのこともないちいさなお部屋ですので、こそうじかもしれません。

今年一年のことを思い返します。

まじめなことをたくさん考えました。

3月に地震が起きた時、一番に考えたのはかぞくのこと。二番目は『誰ガタメノ剣』メンバーの身の安全のことでした。
だれかひとりでも、怪我をしたり、もしも死んでしまったら?
そう考えたら、がたがたふるえて、泣きながら机にもぐっていました。
そう考えながらも、「芝居ができなくなるかもしれない」という、エゴで、私はできていました。
みんなのことが本当に大事だと思ったし、とてもかけがえのないメンバーだと思っていました。
けれども同時に、今しかできない舞台、高知公演のチャンスのことも、ちゃっかりちゃっかり、計算に入れる自分が、なんだかひどくひどい人間で、
そのあと、この地震がこんな、机の下でがたぶるなんてものではなく、ほんとうに大変なことになっていたのだということを、少しずつ知るたびに、人死にがこんなに出た地震の瞬間に、芝居のことを考えていたということが、申し訳ないような、ろくでなしのような、情け知らずのような、人として、よくないような、そんな気持ちでいたのです。

停電が始まり、スーパーにもコンビニにもものがなくなり、電車がとまり、予定の稽古開始日も遅れました。
PRで行くはずだった高知のお祭りもなくなりました。
それでもPRのために行かせてもらった高知行きのバスが、関東を越えてひとつめのサービスエリアに着いたとき、トイレの便座のあたたかさに、びっくりしました。
今まであたりまえだったことが、ほんとうに、あたりまえでなくなったことを感じました。

そんな、人々の日常がこんなにも変わった時代に、結局わたしは、お芝居をしました。
たくさんの人の協力と、強い心と、支えのおかげで、何も心配せずに、お芝居の空間を生きることになりました。
なんと、被災地から観にきてくださったお客さんがいました。
高知に行った時には、高知にきてくれてありがとうといわれました。
チームは団結したし、役者どうし、心の深い部分で感じあえることが、幾度もありました。
そして、この舞台を観てくださった方が、シアターキューブリックという劇団に、いくつかのお芝居に関わるお仕事をくれました。

「芝居がしたい」というエゴを、結局通したことになりました。
ボランティアにも行かなかったし、寄付もできませんでした。
被災地の様子を見にいくこともできなかったし、何かを送ってあげることもできませんでした。

でも、『誰ガタメノ剣』が終わり、半年が過ぎた今、劇団メンバーのそれぞれの活動と、シアターキューブリックの今年を考えたとき、「芝居がしたい」という一言の中にある、自分の大事にしている部分が、以前よりもはっきりしてきたように思います。

「芝居がしたい」。
じゃあ、芝居ができなかったら、何がいやなの?何がまずいの?何が困るの?
人前で、自分を見せることへの欲?
感情表現を誇示したい?
評価してほしい?
自分は特別な人間だと認めてもらいたいの?

それが全くないとは言えません。
ほめてもらいたいし、認めてもらいたい。

でも、私は、それよりも何よりも、誰かと一緒に何かを作ることで生まれる結果を、心から信じているし期待しています。
それに勝るものはないと思います。
人と出会い、つながって、目を見て姿をみて、感情がお互いにあふれて、言葉にしたりしなかったりしながら、一緒に生きていくことが、私がやりたいこと。
そうやって生きていく人が、どんどんどんどん、世界中に増えてほしい。

人と人は、
結局はわかりあえない。
「お前と俺とは、同じ人間なもんか!お前と俺は、別の人間なんだよ!俺が芋食ったら、お前のケツからプッと屁が出るか?ざまあみろ!」
と、寅さんが言ってたっけ(笑)

だけど、お互いのことを想像したり、心配したり思いやる時、お互いに大きな影響や力を与え合っている。
その力は時には暴力にもなるし、ぬくもりにもなるし、そよそよの風にもなる。

人と関わると、傷つきます。
けど、人と関わることで、人生は豊かにもなる。

人と関わることに、臆病になったときに、背中を押してくれるもの。
それが私の、「芝居がしたい」です。
そして、それによって、誰かの背中をちょっとでも押してあげられる機会があれば。
おこがましいかもしれないけれど、そう望んでいます。


おおそうじ(こそうじ)がおわり、洗濯が終わり、どうしてそうなるのか本当に不思議なくらい正月のにおいのする空気の中を、今日はかぞくのところへ帰ります。
道を歩く人も、みんな、スーツケースを引っ張ったり、大きなバッグを斜めにかけたり。
きっとみんな、おうちにかえるんだね。

一年という期間で、終わりと始まりを作ってくれた昔の人、ありがとう。
今年一年の出会いを用意してくれた誰かさん、ありがとう。
出会ってくださったみなさん、ほんとうに、ありがとうございます。

よいお年をおむかえください。