読み終えた2冊から。
キャロル・ネルソン・ダグラス『ごきげんいかが、ワトスン博士(上)(下)』
翻訳は、日暮雅通さん。
シャーロック・ホームズが生涯で唯一、敬意を表した女性アイリーン・アドラーを主人公に据えたパスティーシュ作品の第3弾。前作『おめざめですか、アイリーン』の刊行が2013年の秋(僕が読んだのは2014年の夏)なので随分間が空きましたが、シリーズの続編が読めるのは嬉しい限りです。
さておき。
このシリーズの魅力は何と言ってもアイリーン・アドラーの八面六臂の大活躍!高度な知性にずば抜けた推理能力、冒険好きで女性にとっては近寄りがたい地域でもへっちゃら。変装して尾行もできれば立ち回りも銃の腕前も一級品。引退したとはいえ元オペラ歌手なのでひとたび歌えばあまたの人を魅了し…。と、そりゃあのホームズも出しぬかれますがなって感じです(笑)。本作でもその個性をいかんなく発揮して難事件を見事に解決しています。
このようにアイリーン・アドラーの個性を作者の創造により魅力的に昇華させている一方で、本作で発生する事件はドイル作「海軍条約文書事件」と密接に関連していたり、ワトスン博士の戦傷に関する謎(※)に一説を投じていたり…と、ドイル作品を知って入ればより楽しめるしかけがあり、原作への敬意や配慮もしっかりしているところにも好感が持てます。
あとがきによると、このシリーズは全8作あるのだとか。残り5作品の翻訳版リリースを期待して待ってます。
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ごきげんいかが、ワトスン博士 上 (アイリーン・アドラーの冒険) (創元推理文庫)
1,188円
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ごきげんいかが、ワトスン博士 下 (アイリーン・アドラーの冒険) (創元推理文庫)
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※ワトスン博士の戦傷に関する謎
ワトスン博士は軍医としてアフガン戦争に従軍した際に戦傷を負って帰還しているのですが、この部位について第1作目の「緋色の研究」では“肩”、第2作目の「4つの署名」では“脚”と書かれているため、「どちらが正しいのか?あるいは両方なのか?」と、熱心なホームズ・ファンの間で議論されていますし、BBCドラマ「シャーロック」のように、この謎を逆手にとった演出を取り入れた作品もあります。
「作者の間違い」で終わらせず「物語の世界観で、どう解釈するか?」という大人な遊び。そんな遊びを楽しめる大人になりたいものです。