*ニコラ君の新学期 -届け出書ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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届け出書

プチ・ニコラ

 学校のことですごく役に立つのは、届け出書なんだ。届け出書ってのはね、お父さんから君が預かる手紙や名刺のことだよ。お父さんは女先生宛てに、君が遅刻をしたり、宿題をやらなかったことで罰を与えないで下さいってそこに書き込むのさ。厄介なのは、届け出書にはお父さんのサインが必要なこと、それに日付も書き込まなきゃならないんだ。さもないと、いつでも使えることになっちゃうからね。女先生は届け出書はあまり好きじゃない。それに注意しなきゃいけないんだ。何故って、届け出書を出すと面倒なことになるかもしれないからだよ。例えばクロテールがタイプで打った届け出書を持ってきたときみたいにね。そのとき先生は、クロテールがいつもやらかす綴りの間違いに気づいたんだ。それでクロテールを校長先生の所に行かせた。校長先生はクロテールを退学させたかったんだけど、残念ながらクロテールは停学にしかならなかった。それでクロテールのお父さんは、クロテールを慰めるために、本当にサイレンが鳴るすてきな消防車を買ってやったのさ。

プチ・ニコラ

女先生が、明日提出するメチャ難しい算数の宿題を出していたんだ。山ほど卵を産む雌鶏を山ほど飼っている農夫の話だよ。ボクは算数の宿題は好きじゃない。何故って、宿題が出ると、決まってパパやママと言い争いになるからさ。
 「またどうかしたの、ニコラ?」ボクが放課後家に帰るとママが訊いた。「浮かない顔をしてるわね!」
 「明日提出の算数の問題があるんだよ。」ってボクは答えた。
 ママは大きなため息をついてこう言ったんだ。久しぶりの宿題ね、じゃさっさとおやつを食べて、部屋に行って宿題をやりなさい、もうつべこべ言うんじゃないわよって。
 「でも、算数の宿題なんてできないよ。」ってボクは言った。
 「あら!ニコラ」ってママが言った。「また始まるんじゃないでしょうね?」
 そこでボクは泣き出して、こう言ったんだ。そんなのひどいよ、学校で手に負えないほど難しい問題を出してるんだから、パパが先生に会いに行って文句を言ってくれなきゃ、ボクはもううんざりしてる、これからもずっと算数の問題を出されるんなら、ボクはもう二度と学校には戻らないからねって。
 「いいこと、ニコラ」ってママが言った。「ママには仕事がたくさんあって、坊やとおしゃべりしてる暇はないの。だからね、部屋に行って自分で問題を解いてみなさい。それでもし解けなかったら、そうね、パパが帰って来れば、手伝ってくれるわ。」
 そこでボクは自分の部屋に行って、おばあちゃんが送ってくれた小っちゃくて青い、新しい自動車で遊びながらパパの帰りを待ったのさ。そしてパパが帰って来ると、ノートを持って走って下に降りて行ったんだ。

 「パパ!パパ!」ってボクは叫んだ。「算数の問題が出てるんだよ!」
 「おやまあ!自分でおやり、可愛い子ちゃん」ってパパは言った。「もう大きいんだからな。」 
 「出来ないよ、ボクには」ってボクはパパに説明した。「パパが代わりにやってくれなきゃ。」
 パパは客間のアームチェアに座って、いつもの新聞を開いていたんだけど、すごく大きなため息をついたんだ。
 「ニコラ」ってパパは言った。「もう何度も繰り返して言って聞かせただろう。自分の宿題は自分でやらなきゃいけないって。君は勉強するために学校に通ってるんだ。パパが宿題をやってたら何にもならんだろう。後になって、君はパパに感謝することになるさ。ニコラだってやっぱり無知な大人にはなりたくないだろう、違うかね?だから君は自分の部屋に行って問題を解いてみなさい。そしてパパには新聞を読ませておくれ!」
 「でも、問題をやるのはパパだってママがボクに言ったんだよ!」ってボクは言った。
 パパは新聞を膝の上に落として、大声を出した。
 「ええ!そう言ったのか、ママは?いやはや、そんなことを言うなんて間違っていたな、ママは!さあもう、私の邪魔をしないでおくれ。分かったかい?」
 それでボクはまた泣き出して、こう言ったんだ。ボクには解けないよ、問題なんか。もし代わりにやってくれないんなら、ボクは自殺してやるって。するとママが走ってやって来た。
 「ああ、やめてちょうだい、お願いだから!」ってママは叫んだ。「私、疲れていて頭痛がするのよ。二人の叫び声のせいで私病気になっちゃうわ!一体また、どうしたっていうのよ?」
 「パパが問題をやってくれないんだ!」ってボクは説明した。
 「いいかね」ってパパはママに言った。「この子の代わりに親が宿題をやるのはあまり賢い教育法ではないと私は思うんだがね。そんなことをしたら、この子は将来碌な大人になりゃしない。それに、私に成り代わってこの子にあれこれ約束しないでいただければ有り難いんだがね!」
 「まあ!ご立派なこと!」ってママはパパに言った。「今度は、この子の居る前で私にあれこれ文句をつければいいわ。そうよね!ご立派なこと!それが賢い教育法なのよね!」
 それからママはこう続けた。自分はこの家にはうんざりしている、一日中働いて、その挙句こんな感謝のお言葉を頂くぐらいなら母の家(ボクのおばあちゃんのことさ、小っちゃな青い自動車をくれたおばあちゃんだよ)に戻るほうがましだ、自分はただ、少しそっとしておいて欲しいだけだ、それが過分な要求でなければってね。
 するとパパは片手で額から顎までつるっと顔を撫でた。
 「分かった、分かった」ってパパは言った。「大げさな話は無しだ。私にその問題とやらを見せてごらん、ニコラ。それでもうこの話は無しにするぞ。」

 ボクがパパにノートを渡すと、パパは問題を読み、それからまた読み直し、目を真ん丸にしてノートを絨毯に放り投げるとこう叫んだんだ。
 「ああ!」って言って、それから「ダメだ!ダメと言ったらダメだ!パパだって疲れてる!パパだって病気なんだ!パパだって一日中働いている!パパだって家に帰ったら、少しは安らぎと落ち着きが欲しいんだ!それに、君たちにはずいぶん意外に思えるかもしれんが、パパは算数の問題なんかやりたくもないんだ!」
 「それじゃ」ってボクは言った。「ボクのために先生に渡す届け出書を書いてよ。」
 「そう来ると思ったよ!」ってパパは叫んだ。「絶対書かんぞ!それじゃ甘すぎるだろう。ニコラは自分で問題をやりさえすればいいんだ、皆と同じようにな!」
 「ボクだって病気なんだ!」ってボクは叫んだ。「ボクだってメチャ疲れてるんだ!」
 「ねえ聞いて」ってママがパパに言った。「実際、この子は具合が良くないと思うの。顔色が真っ青よ。学校では生徒に勉強させ過ぎてるって言わざるを得ないわ。それにこの子はまだアンギーナ(口峡炎)が完全に治りきっていないのよ。ニコラは、今晩は少し休息して早く寝た方がいいんじゃないかって思うの。何だかんだ言っても、一度ぐらい宿題の問題をやらなくたって大したことじゃないわ。」
 パパはじっと考えてから、こう言ったんだ。いいだろう、でもあくまでそれは、今晩は家族全員が病気だからだぞって。それでボクはメチャ嬉しくなって、パパにキスし、ママにキスし、それから絨毯の上ででんぐり返しをした。パパとママは大笑いをして、パパは名刺を一枚取り出した。新しい名刺でキラキラ光る文字が印刷してある名刺だよ。で、パパは名刺にこう書いたんだ。
 ≪先生、謹んでご挨拶申し上げるとともに、息子ニコラが算数の宿題をやらなかったことをお赦しいただければと思っております。と申しますのも、今晩下校後、ニコラは少々熱があり、親としては息子を床に就かせるのが良策と考えた次第です。≫
 「しかし、先に言っておくがね、ニコラ」ってパパは言った。「今年君のために届け出書を書くのは、これが最後だぞ!よく分かったか?」
 「ああ!もちろんだよ、パパ!」ってボクは答えた。
 パパが名刺に日付を入れてサインをすると、ママが夕食の用意が出来ているって言った。夕食はすごく素敵だったんだ。何故って、ローストした肉と小ぶりのポテトが出て、それに家族全員が満足していたからだよ。

今朝登校すると、みんなは例の算数の問題のことを話していた。
 「ボクの答は、卵3,508個になったよ。」ってジョフロワが言った。ウードはそれを聞くと大笑いして、
 「オーイ、みんな!」って大声で言った。「ジョフロワの奴、3,508個だってよ!」
 「ボクの答もそうだ。」ってアニャンが言った。アニャンはクラスの一番で、先生のお気に入りなんだ。するとウードの奴、笑うのを止めて校庭の奥に行って、自分のノートの答を書き直したのさ。

プチ・ニコラ

 ジョアシャンとメクサンは同じ答になっていた。二人の答は、卵3.76個。難しい宿題が出ると、ジョアシャンとメクサンは電話をかけあうのさ。それで、先生はよく二人に0点をつけるんだ。でも今度は二人とも、心配してないって言ってた。何故って、今度は二人のお父さんたちが電話をかけあったからだって。
 「それで、お前の答はいくつになったんだ?」ってアルセストがボクに訊いた。
 「答なんか何も出てないよ」ってボクは言った。「でも届け出書があるんだ。」
 で、ボクはパパの名刺をみんなに見せてやった。
 「ついてるな」ってクロテールが言った。「ボクなんか、*父さんがこの前書いてくれた届け出書のせいでボクが停学を喰らってからは、届け出書を書いてもらえないのさ。」
 「オレもだよ。家(うち)の父さんも届け出書を書いてくれないのさ」ってウードが言った。「それに、家で届け出書をもらうとなると大騒ぎになるから、オレは何とか自分で問題を解いてみる方が好きなんだ。」
 「ボクんちもそうさ、簡単にはいかなかったよ」ってボクは言った。「それに父さんは、今年はもう届け出書を書かないって言ったんだ。」
 「お父さんの言う通りだよ」ってジョフロワが言った。「届け出書を出す奴がいつも同じってわけにはいかないんだ。それに、もし同じ日に全員が届け出書を持って来たりしたら、女先生だって騙されないからね。」
 「だよなあ!」ってアルセストが言った。「他に誰も届け出書を持って来なかったなんて、ついてるよ、お前は。」
 それから始業の鐘が鳴ったので、ボクらは入口に行って整列した。すると校長先生がやって来て、こう言ったんだ。
 「諸君、ブイ…、いや、デュボン先生がこれから君たちの自習を監督される。実は、担任の先生から届け出があり、先生は少し体の具合が悪いので今日はお休みになるそうだ。」

プチ・ニコラ

*担任の女先生は、届け出書の綴りの間違いに気づき、てっきりクロテール自身が書いたものと勘違いしていたのだが、実はクロテールの父親が書いていたという話(笑)。


(ミスター・ビーン訳)

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