*ニコラ君の新学期 ージョフロワの家ー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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ジョフロワの家

プチ二コラ


 今日、ジョフロワが午後家に遊びに来いよって誘ってくれたんだ。ジョフロワの話では、他にも仲良しの連中をたくさん招待してるんだって。きっとすごく楽しくなるな!
 ジョフロワのパパはとてもお金持ちで、ジョフロワには何でも買ってあげるんだ。例えば、ジョフロワは大の仮装好きだから、仮装のコスチュームを山ほど買ってあげるのさ。ボクはジョフロワの家に行けるのが嬉しかった。初めての訪問だし、すごく立派な家だっていう噂だからね。
 ジョフロワの家にはパパが(ボクのパパだよ)連れて行ってくれたんだ。ボクらは車で彼の家の前にある駐車場に入った。
 パパは車をゆっくり運転しながら周りを見回して、口の中で何度か小声で「ヒュー」って言ってたな。それから、パパとボクは一緒に見たんだよ。何と、プールがあったんだ!腎臓みたいな形の大きなプールで、真っ青な水が張ってあって飛び込み台がたくさんあるんだ!
 「立派な物をいろいろ持ってるなあ、ジョフロワは」ってボクはパパに言った。「ボクもああいうのを持ってみたいなあ!」
 パパは困った顔をしてた。ジョフロワの家の玄関の前でボクを降ろすと、こう言ったんだ。
 「6時にまた迎えにくるからね。キャビアを食べすぎるなよ!」
 キャビアって何?って訊く前に、パパはさっさと車で帰っちゃった。何故かわからないけど、パパはジョフロワの立派な家があまり好きじゃないみたいだったな。

 ボクは玄関の呼び鈴を鳴らしたんだけど、変な気がしたんだ。だって呼び鈴はボクの家のようにピン・ポーンとは鳴らずに、レオーヌ叔母さんの柱時計が3時に鳴るみたいに、ディン・ダン・ドンって鳴ったのさ。
 ドアが開くと、すごく立派な身なりの、清潔で、でもちょっとコミカルなおじさんの姿が見えた。おじさんは黒いスーツを着ていた。上着は後ろの方が長くて、前の方はボタンを外している。ワイシャツはごわごわしていて黒い蝶ネクタイをしてるんだ。
 「ジョフロワ様がお待ちです」っておじさんがボクに言った。「私めがこれからご案内いたします。」
 ボクは後ろを振り返ったけど、おじさんが話しかけていたのは確かにボクだったのでおじさんの後について行った。
 おじさんは両足をほとんど地面につけずに、あのごわごわしたワイシャツみたいにしゃっちょこばって歩いていた。ジョフロワのパパの立派なカーペットに皺をつけたくないって感じだったな。それでボクもおじさんの歩き方を真似してみたんだけど、二人が縦に並んでこんな風に歩いてるのを見れば、きっとすいぶん滑稽だっただろうな。

プチ・ニコラ

 大きな階段を上がっている途中で、ボクはおじさんにキャビアって何ですかって訊いてみた。だってそのとき、ボクはおじさんからあまりよそよしくされたくないと思ったんだ。おじさんの話では、それは魚の卵でカナッペ(注:薄く切ったパンで、その上に卵や肉をのせる)にのせて食べるんだって。それでね、客間のカナッペ(注:ソファーのこと)の上で卵をあたためてる魚のことを考えてかなり面白かったよ。
 階段を上りきって、ある部屋のドアの前に来たんだ。ドアの向こうからは騒々しい音が聞こえていたんだ。叫び声とか犬の鳴き声とかね。黒服のおじさんは額に片手を当てた。何かためらってる様子だったな。それからドアを一気に開けて、ボクを部屋の中に押し込むとさっとドアを閉めちゃったんだ。

 ボクの仲良したちはもうみんな来ていた。その中にはジョフロワの飼い犬のホットドッグもいた。ジョフロワは近衛騎士の恰好をして、羽飾りのついた大きな帽子を被り、腰には剣を差していたよ。アルセストもいたんだ。しょっちゅう何か食べてる例の太っちょさ。それにウード。タフな奴で、冗談に友だちの鼻にパンチを喰らわせるのが好きな奴だ。他にもたくさんの仲間がみんな揃っていて大騒ぎをしてた。
 「おいでよ」口に食べ物を頬張ったままアルセストがボクに言った。「おいでよ、ニコラ。これからジョフロワの鉄道模型で遊ぶんだぜ!」
 すごいんだよ、ジョフロワの鉄道模型は!
 みんなメチャクチャ脱線しまくったんだ。ちょっと拙かったのは、ウードがホットドッグのしっぽに食堂車をくっつけたときだよ。ホットドッグはすごく嫌がって走ってグルグル回り始めたんだ。ジョフロワもそれが気に入らなかった。だから剣を抜いて、こう叫んだのさ。
 「構えろ!」

プチ・ニコラ

 でもウードはジョフロワの鼻にパンチを一発喰らわせた。そのときドアが開いて、黒服のおじさんが入って来た。
 「少しお静かに!少しお静かに!」っておじさんは何回か言った。
 ボクはジョフロワに、あの立派な身なりのおじさんは家族の人なのかって訊いたけど、ジョフロワは、そうじゃない、アルベールっていう名前で、給仕長をしている、ボクらの監視を任されてるんだって言った。するとアルセストが思い出したのさ。自分はミステリー映画に給仕長が出てくるのを見たことがある、そんなとき殺人犯は決まって給仕長だってね。アルベールさんは、大きすぎるキャビアを産んだ魚のような目つきでアルセストを見つめたんだ。ジョフロワが、いいことを思いついた、プールに行こうよってボクらに言った。みんなは賛成して、走って部屋を出たんだ。出がけにアルベールさんを少しばかり突き飛ばしちゃったんだけど、アルベールさんがボクらの後についてきて、それにワンワン吠えて大騒ぎをしながらホットドッグもついてきた。何故ってボクらはホットドッグから食堂車を外してやるのを忘れていたからさ。ボクらは手すりをすべりながら階段を下りた。気持ちよかったなあ!

 みんなはジョフロワが貸してくれた水泳パンツと水着を着て、プールに集まった。でもアルセスト用のは無かったんだ。なにしろ奴は太り過ぎていたからね。ジョフロワは水泳パンツを2枚貸してやるつもりだったけど、アルセストは、それには及ばない、自分は食べたばかりだから今は泳げないって言ったんだ。可哀想なアルセスト!しょっちゅう何か食べてるから、アルセストは絶対に泳げないのさ。
 みんなプールに飛び込んで、いろいろすごいことをやったんだ。クジラの真似や、潜水艦の真似、溺れるふりをしたり、イルカの真似をしたりね。ボクらは誰が一番長く水に潜っていられるかってことで競争してた。そのとき、水をかけられないように飛び込み台の天辺からボクらを監視していたアルベールさんが、プールから出なさい、おやつの時間ですよって言ったんだ。ボクらが水から上がると、アルベールさんはウードがプールの底に残っているのに気が付いた。アルベールさんは服を着たまますごくカッコよく飛び込んで、ウードを引き上げた。ボクらはみんな拍手喝采さ。でもウードは別で、カンカンに怒っていた。何故って、奴は潜水記録を更新しているところだったからね。それでウードはアルベールさんの鼻にパンチを一発お見舞いしたってわけ。
プチ・ニコラ
 みんなは着替えて(ジョフロワはインディアンの衣装を着て、羽飾りを一杯着けていた)、ジョフロワの家の食堂に行っておやつを食べた。その食堂ときたら、レストランみたいに広いんだ。おやつはすごく美味しかったけど、勿論キャビアなんか出なかった。ホラ話だったってわけ。アルベールさんも着替えに行って、また戻って来た。チェックのシャツと緑色のスポーツ・ジャケットを着ていたよ。それに鼻が真っ赤になっていて、アルベールさんは、お前にも鼻にパンチを喰らわせてやるぞっていう目つきでウードを睨んでいた。

 その後、ボクらはまた戻って遊んだ。ジョフロワはボクらをガレージに連れて行くと、自分の自転車を3台、それにペダルの付いたちっちゃな自動車を見せてくれた。自動車は色が真っ赤で、本当に点灯するヘッドライトが付いてるんだ。
 「どうだい?」ってジョフロワが言った。「見たかい?オモチャなら欲しいのは何でも持ってるんだ。パパが全部買ってくれるのさ!」
 そう聞いてボクはあまり愉快じゃなかったから、こう言ってやったのさ。フン!そんなの大したことないや、家(うち)の屋根裏にはパパが子供の頃木箱で作ったすごい車が有るんだぞ、それにパパは、こういうものはお店じゃ売っていないって言ってたぞってね。それに、こうも言ってやった。ジョフロワのパパじゃそんな車は作れないだろうよってね。ジョフロワとボクが言い合いをしてると、アルベールさんがやって来て、ボクのパパが迎えに来たって伝えてくれた。
 帰りの車の中で、ボクはパパにその日ボクらがやったことを洗いざらい話して、それにジョフロワが持っているオモチャのことも全部話したんだ。パパはボクの話を聞いていたけど、何も言わなかった。
 その晩、ジョフロワのパパのピカピカのでっかい車が家の前に止まるのが見えた。ジョフロワのパパは困ってる様子で、パパと話をした。ジョフロワのパパはボクのパパに、屋根裏に置いてある例の車を売ってくれるかどうか訊いたんだ。何故って、ジョフロワが自分にもそういう車を作ってほしいって言ってるんだけど、ジョフロワのパパはどうやったらいいのか分からないってことなのさ。するとパパは、あの車を売るわけにはいかない、あの車にはとても愛着がある、でも車の作り方なら喜んでお教えするって言ったんだ。ジョフロワのパパは、何度もお礼を言い、明日また車の作り方を習いに来るって言って、大喜びで帰って行った。

プチ・ニコラ

 パパも喜んでいたよ。ジョフロワのパパが帰ると、パパは胸を張って部屋の中をグルグル歩き回り、ボクの頭をなでながらこう言ったんだ。
 「そうだろう!そうだろうとも!」


プチ・ニコラ

(ミスター・ビーン訳)

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